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妻のへそくりが沢山ある場合は申告の対象?相続税申告の注意点

依頼者・関係者

相談者は、広島市安佐南区在住の60代の女性Aさん

相続人は、配偶者A(専業主婦)さんと子の2人

相続財産の内訳

不動産  2,000万円

金融資産 2,000万円

 合計  4,000万円

配偶者名義のへそくり財産2,000万円

相談状況・内容

 ご主人が亡くなり相続税の申告を依頼されに来所されました。

財産の状況などを一通り確認し、申告に必要な書類のリスト(注1)をお渡し後、何か気になっている事がないかをお聞きしました。

最初は、何か言いにくそうな感じでしたが、長年貯めてきた「へそくり」の事が気になっているご様子でした。

 その金額が2,000万円以上だった事とネット情報や知り合いなどから、「へそくり」については税務署が目を光らせているので気を付けた方がいいと言われた事が気になっている様でした。

 ただ、「へそくり」については名義が自分になっているし、長年、自分が頑張って貯めてきたものだから出来れば放っておいて欲しいと言うのがご希望でした。

へそくりについては確かに、自分名義のお金となっており、相続手続きの対象でありません。相続税の課税対象にはならないと考える人も多いでしょう。

この記事では本当に相続税の課税対象とならないのか、判断のポイントを解説していきます。

ご提案・解決方法

 まず初めに、夫名義の相続財産(4,000万円)が、相続税の基礎控除額(注2)4,200万円以下だったので相続税の申告義務がない事を説明しました。

問題は、配偶者名義の「へそくり(金融資産)」をどの様に取り扱うかです。

 ここで税務的な考え方ですが、一般的に財産が他人に移転する為には、売買、貸付、贈与の取引を介在する場合しかありません。

 まず、今回の「へそくり」については売買ではなく、金銭消費貸借契約書も存在しないので貸付にも該当しません。

 では、「へそくり」が贈与に該当するか否かですが結論的には贈与には該当しません。贈与は贈与する人とされる人の贈与契約があって成立します。今回のケースでは贈与契約が締結されたわけではありませんので、贈与税の課税対象ともなりません。

贈与は、諾成契約と言ってAさんと夫の両者の合意(あげる・もらう)が無ければ成立しないからです。

 今回の「へそくり」はAさんが勝手に貯め込んでいただけでお互いの合意はありません。

 上記の理由から、今回の「へそくり」は、税務上、夫の財産であると考えられる為、Aさんの気持ちも理解は出来ますが、相続財産に計上すべきである事を説明をしました。また、配偶者が仕事をして稼いでいるわけではないのに、配偶者名義に2,000万円もの大金があることは不自然です。税務署もご主人が亡くなったときの手続きで不審に思う可能性があります。

 尚、相続税の申告を行えば、配偶者の税額軽減などの優遇規定によりAさんが全財産を取得する場合には、相続税は発生しない事を説明しました。

配偶者の税額軽減とは配偶者の法定相続割合もしくは1億6,000万円までの範囲内で、あれば、配偶者が相続した財産に相続税はかからないという特例です。配偶者の税額軽減を使うことで、多くの人が夫婦間の相続では、非課税で財産を相続することができるでしょう。

せっかくやりくりして貯めたお金なのに、課税対象とするのはあんまりだと思われた方も多いと思いますが、実際には配偶者はかなり優遇されています。

結果

 Aさんには、「へそくり」が相続税の申告上は、夫の財産に計上しなければいけない事を理解して頂けました。

 結果的には、配偶者の税額軽減の利用する事により相続税が発生しないので納得されて申告をされました。

 尚、今回の様なケースで、税務調査後に、「へそくり」が夫の財産として認定された場合に、相続税の申告期限内に申告が行われてい為、配偶者の税額軽減を利用する事が出来ないので注意が必要です。しっかりと申告をしないことで、かえって相続税が高くついてしまうのです。

相続はいつ発生するかわかりませんし、何度も経験するものではありませんので、知識・経験が不足しているのは当然です。たとえ、知らなったとしても、申告漏れがある場合、加算税を課されることがあります。

そのため、各種サイトで情報収集をしたり、相続に詳しい業界の税理士などの専門家に相談をしながらしっかりと財産を評価し、相続税の申告書を作成することが重要です。税務署に調査をされた際にも自信をもって資料を提出できるように準備しておきましょう。

例え知らなかったとしても、後だしジャンケンは許されないのです!

参考法令他

(注1)相続税の申告に必要な書類リスト

興味のある方は、弊所の「相続税の申告に必要な書類リスト」を利用してください。

(注2)相続税の基礎控除額(相続税法第15条)

相続税の総額を計算する場合においては、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格の合計額から、3,000万円と600万円に当該被相続人の相続人の数を乗じて算出した金額との合計額を控除する。

(注3)配偶者の税額軽減(相続税法第19条の2) 国税庁NO.4158

 配偶者の税額の軽減とは、被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が、次の金額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからないという制度です。

 (1)1億6千万円

    (2)配偶者の法定相続分相当額

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相続事例の執筆担当者

氏名:山根 謙二 (やまね けんじ)

資格:税理士(税理士登録番号92527号)
   行政書士(行政書士登録番号18342346号)
   相続手続カウンセラ-

専門分野:相続税、事業承継

出身:広島県廿日市市

趣味:ゴルフ、旅行(海の綺麗な所)

お客様に一言:相続の事なら何でもご相談下さい