相続税には基礎控除があり、基礎控除より相続財産が多い人が亡くなると相続税を支払う必要があります。基礎控除の計算式は以下の通りです。
3,000万円+法定相続人×600万円
相続税は申告期限までに現金一括で支払う必要があります。現金が多い人が亡くなった場合は相続した現金を活用して相続税を支払うことができますが、土地や建物、マンションなど不動産中心に相続した場合は、引き継いだ財産の中から相続税を支払えない場合もあります。無申告のまま、放置し時間が過ぎてしまうと無申告加算税を請求される可能性があります。
当記事では土地が多いという理由で納税資金不足となった際の対処法とそれぞれのメリットやデメリットについて解説しますので参考にしてみてください。
相続税の納税資金不足となった場合の対処法
相続税は期限内に支払う義務があり、支払いが遅れた場合、税務署から延滞税も請求されます。相続税の納税資金が確保できないときはどのような対処法があるのでしょうか。具体的な方法を確認してみましょう。
売却する
引き継いだ自宅などの土地の価値が高ければ高いほど、相続税が高くなります。相続税の評価は路線価で計算を行いますが、路線価が高い土地は基本的に高く売れる可能性が高いので、多くの場合、相続した土地を売却し、相続税以上の現金を手に入れることができますので、税金の納付に充てることができるでしょう。
ただし、売却してしまうとその土地は自分で利用することはできません。本当に土地を手放していいかよく考えてから売却する必要があるでしょう。土地を売却する際は不動産会社から紹介を受けた買主に売却することになりますが、急いで売却した場合、実際の時価よりも低い価格でしか売れない可能性もあります。
また、売却すると取得などにかかった必要経費を差し引いて20.315%の譲渡所得税がかかります。代々引き継いだ土地で購入した時の価格が分からない場合、譲渡所得の負担も多くなりますので注意しましょう。
延納の申請を行う
延納とは相続税を分割で支払う方法です。延納をする場合、最長で20年間の範囲で分割払いにすることができますので、不動産を相続した場合は建物から生まれる賃貸収益で相続税を少しずつ支払っていくことも可能です。
延納を利用するためには相続税が10万円を超える場合で、金銭で一括納付が難しいことが条件となります。
延納のデメリットは利子税を支払う必要があることです。不動産の収益性が低く利子税の負担が大きくなる場合は売却して一括納付することを検討してもよいでしょう。延納は税務署が審査を行うため、必ず認められる制度ではありません。
物納の申請をする
物納とは、現金で相続税を払わずに保有する資産をそのまま納税に充てることです。物納は金銭で一括納付が難しいこと、物納の財産が不動産や国債、株式、船舶、動産など国が指定する内容のものであることが条件となっています。物納の申請をするためには物納申請書と物納する財産に関する書類を提出する必要があります。
また、物納の可否は税務署が判断しますので、物納の申請をしても必ず認められるわけではありませんし、物納の順位は決められており、納税する者が任意に選ぶことはできません。例えば、上場株式があるにもかかわらず、非上場の株式で物納するようなことはできません。また、小規模宅地の特例などを利用した場合は特例適用後の評価額に相当する金額が物納する際の価格になりますので注意しましょう。
相続放棄をする
土地の評価が高く税額の負担が大きいケースでは相続放棄をすることも一つの選択肢となります。相続放棄をすると土地以外のプラスの財産もマイナスの財産も一切受けることはありませんので、全ての財産を引き継がなくていい場合に限り選択することができます。
また、相続放棄をすることで、法的に始めから相続人ではなかったことになり他の相続人で財産を分けることになりますので、配偶者や子供など他の相続人の負担が大きくなってしまいます。相続放棄をする時は電話等で他の相続人に伝えておくようにしましょう。
相続放棄をした後に取り消すことはできませんので、慎重に検討してから相続放棄をするようにしましょう。
土地を担保に金融機関から借り入れをする
担保評価の高い土地の場合は土地を担保に提供し、金融機関から融資を受け、ローンとして長期間かけて返済を行うことが可能です。金融機関から借入をすることで、借金を背負い利息を支払う必要がありますが土地を売却せずに保有し続けられるというメリットがあります。
一方で銀行などの金融機関でお金を借りる際は収益性や背景資産などを伝え、収支を計算のうえ判断されます。借入の申込をしても必ず借りられるわけではありません。実際に申告期限ぎりぎりで融資が下りなかった場合、相続税を納めることが困難になります。
申告期限まで日が迫っている場合は、審査が下りない可能性も考慮して延納や物納、売却などの情報もあわせて収集しておくようにしましょう。
また、変動金利で借りる場合は今後の金利も注意点となります。金利が上昇し、ローンを支払えなくなった場合は物件を差し押さえられる可能性もあります。
土地が多い場合に行っておきたい生前の準備
課税対象となる土地が多く、相続税を払うことができない可能性がある場合、状況に応じて生前に様々な対応をしておくことで相続人の負担を軽減することができます。次に将来の相続に備えて生前に行うことができる対策を見ていきましょう。
現状を把握する
相続税対策をするうえで、必ず行っておきたいのが現状を把握することです。相続が発生したらどれくらいの相続税がかかるのか、預貯金や株式不動産などの財産をまとめた一覧を作成し、相続税を事前に確認しておきましょう。現状を知っておくことでさまざまな対策を検討し、選択することが可能です。配偶者控除など相続する人によって利用できる特例も多くありますので、相続税は分割の方法によっても利用できる特例が異なり納付する金額が変わりますので、配分についても検討する必要があります。
国税庁のホームページに計算方法は記載されていますが、所有している各財産の評価や特例の要件は複雑で誰でもできることではありません。
自分で相続税の計算をすることが難しい場合は税務の専門家である税理士に相談し、シミュレーションを行うようにしましょう。税理士に依頼することで、注意すべき点も確認しながら対策を検討することも可能です。
税理士にも専門分野がありますので相続税関連の手続きに強い税理士に依頼するようにしましょう。
現金を生前に贈与する
毎年一定額の資金を相続人に贈与することで、相続人に相続税を支払う余力が生まれ、相続が発生する前に贈与をすることで遺産を減らすことができますので相続税自体も下げることができます。暦年贈与の場合、毎年110万円までは基礎控除がありますので、非課税で贈与をすることができます。生前贈与は簡単で確実に相続税を減らすことができますし、相続税を支払うためのお金を用意することもできますので、おすすめできる相続税対策の一つです。
相続人が複数いる場合は相続人間で不公平にならないように配分にも注意する必要があります。
遺言を作成する
財産の中で土地の数が多い場合や、評価が高いなど資産に占める割合が多い場合、事業を継続するために1人の相続人に財産の多くを遺さざるを得ないケースがあります。土地が多い場合は法定相続割合で分けることが難しいため、それぞれの主張がかみ合わず遺産分割協議でトラブルとなり、関係が悪化する可能性も高くなります。法定相続分通りに分けることが難しく、配分が問題になりそうな場合は遺言を作成しておくことで、遺言者の希望通りに配分することができます。
相続発生後は課税対象財産の評価や申告書類の作成だけでなく、不動産の登記や金融機関の口座の名義変更なども必要ですので、相続税だけでなく、手続き面で家族の負担も多くなります。
また、相続税の申告期限は原則、被相続人の死亡の翌日から10ヶ月以内と短い期間に遺産相続を進める必要があります。事前に遺言を作成することで配分について話し合う必要がないため、トラブルを回避し、スムーズに手続きを進めることができるでしょう。
遺言の書き方が分からない場合は弁護士、司法書士、税理士などのサポートを受けるようにしましょう。専門家に依頼することで費用はかかりますが、確実に有効な遺言書を作成することが可能です。また、相続発生後に相続人の代表として手続きを行う人も決めておいた方が良いでしょう。
相続税に関するお悩みは税理士に相談を
相続税は財産の状況やか相続人によって異なりますので個別性が高く、ノウハウがないと非常に計算が難しい税金です。自身で相続税の申告をすることが難しい場合は相続税や贈与税を専門に行っており、実績が豊富な税理士事務所・税理士法人に依頼するようにしましょう。
相続税の計算は複雑で特例や控除等の適用、添付書類の作成は知識がない人にとっては難しいものです。また、相続開始から10ヶ月と短い期間で申告を完了させる必要があり、大きな負担が生じます。
本来の税金とは誤った申告をした場合、税務署から指摘され加算税を請求されることもありますが、税理士に依頼することで税務調査に入られても安心して対応することが可能です。