基礎控除を超える財産を保有する人が死亡し、親族が遺産を相続すると相続税がかかります。
資産家の方は次の世代に財産を多く残すため、贈与税の非課税の範囲で生前贈与等を行って、高額の相続税を少しでも減らしたいと不安に感じている人は多いでしょう。暦年贈与も有効な手段ですが、資産が多い方におすすめの方法は不動産を活用した相続税対策です。
不動産を活用することで、なぜ相続税が下がるのか、当記事では、その理由や仕組みについてポイントを抑えてお伝えします。相続税対策について検討している方はぜひ参考にしてみてください。
不動産の評価方法
なぜ、不動産を活用することで節税につながるのか、その理由は不動産の評価方法にあります。土地と建物に分けて不動産の評価方法について解説していきます。
土地の評価
土地の評価は、市街地などの路線価のある地域では路線価×面積、路線価がない倍率地域では固定資産税評価額×倍率で計算を行います。路線価や倍率は国税庁のホームページで確認することができます(リンク)。
路線価は売買される価格の8割程度で設定されていますので、現金1億円で購入した土地は8,000万円程度の評価額となり、総資産の評価源につながります。
建物の評価
建物の評価は新築時の場合、固定資産税評価額が建築費の6割~7割程度となることが多いです。土地よりも時価と相続税評価の差額は大きく、建物部分が多い方が、評価減につながります。
建物は築年数に応じて劣化していきます。特に一戸建ての場合、築年数が経過すると、建物の価格と固定資産税評価額と同じくらいになることがあります。
戸建てとマンションの違い
戸建てとマンションでは評価減の効果が大きいのはマンションです。その理由は戸建ての場合、土地部分が大きいのに対し、マンションは建物部分の割合が多いからです。
土地よりも建物部分の方が相続税評価と時価の乖離が大きいため、相続財産としては大きく評価を減額することができます。
賃貸に出すとさらに評価を減額できる
購入した不動産を他人に貸し出すと、さらに一定額評価を軽減できるために使うことができる仕組みがあります。土地と建物の評価の方法について解説します。
まず、土地は自用地評価として、上記で解説した、路線価×面積で評価額を求めます。土地の上に建物を建てて、他人に貸している場合、貸家建付地として、評価することができ、以下の計算式で評価を行います。
貸家建付地評価額=自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
借地権割合は各地域に付されており、路線価と同じ国税庁のホームページで確認することができます(リンク)。
借家権割合は全国一律で30%、賃貸割合は満室の場合100%となりますので、土地の評価額が1億円で借地権割合が60%、満室稼働の場合、計算式にあてはめて計算をすると8,200万円の評価となります。
更に建物も貸家として評価をすることができます。貸家の計算方法は以下の通りです。
貸家の評価額=固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)
固定資産税評価額1億円の建物が満室稼働の場合、相続税評価額は7,000万円となります。
貸家建付地評価の仕組みを利用して、アパートなどを建築することで、時価よりも評価額を大きく下げることができます。相続税を少なくすることを目的として、不動産を購入することも有効な手段といえるでしょう。
特例を活用することで、更なる評価減につながる
上記に説明した通り、不動産を保有することで評価を減額することができますが、条件を満たしている場合、特例を利用することで更に低い評価にすることができます。相続人の状態などにより、不動産の評価を減額するために定められている特例が小規模宅地の特例です。状況によって使えることができる小規模宅地の特例の3つの種類と効果について解説します。
特定居住用宅地の特例
特定居住用宅地の特例とは被相続人が自宅として住んでいた土地を相続した配偶者や持ち家を持たない子供が利用できる特例です。最大330㎡まで80%減額することができます。
保有している住宅が対象となる場合、非常に控除の金額が大きいので、必ず適用漏れがないようにしましょう。
特定事業用宅地の特例
特定事業用宅地の特例は、被相続人が会社経営などの事業を行っていた場合に利用できる特例です。特定事業用宅地の特例を活用することで、最大400㎡を限度に80%減額することができます。
貸付事業用宅地の特例
貸付事業用宅地の特例は賃貸アパートや貸駐車場にしている土地で利用できる特例で、最大200㎡まで50%評価を減額することができます。
不動産を保有するデメリット
不動産を保有することで、実際に財産の額や税率を下げることができ、税額も大幅に減らすできるというメリットがありますが、自宅以外に相続税対策の一環で投資用の不動産を保有することのデメリットもあります。デメリットや注意するべき点についてもしっかりと理解しておきましょう。
手間とコストがかかる
不動産投資を行い、継続して保有し続ける場合、将来、毎年所得税を納付するための確定申告や、メンテナンスをし続ける必要があります。場合によっては、住人とのトラブルに対応する必要がある場合もあります。
不動産を保有することで、管理の手間と税金も含め、継続的なコストが増えてしまうことは財産を受ける家族にとってもデメリットといえるでしょう。
配分で揉める可能性がある
不動産は現物資産ですので、現金に比べると、遺産分割の際の配分が難しいケースがあります。そのため、複数の相続人がいる場合、価値の高い不動産を誰が取得するか、権利がある者同士で亡くなった後にそれぞれの意見を主張して分割方法でトラブルになる可能性があります。
不動産は複数の相続人で共有することも可能ですが、共有にすると所有者全員で合意しないと、建て替えや売却などの重要な決断をすることができません。不動産の経営方法を巡って意見が合わないことも多くありますので、なるべく共有は避けた方がよいでしょう。
不動産の分け方をきっちりと決めておきたい場合は、自分の考えをまとめて、遺言を作成することをおすすめします。費用はかかりますが、作成時点で法的に有効となる公正証書の遺言を作成しておくなど、配分についても考慮して、準備することが重要です。
遺言書を作成する際は、文章を書く前に財産の一覧の表を作成し、相続人同士で、大きく配分に差がでないように、調整するようにしましょう。不動産を購入することで、相続人同士で争いが起こりそうであれば、現金でそのまま持っておくことを選んだ方がよいでしょう。
賃貸経営にはリスクがある
アパートなどを建築して不動産賃貸を事業として行う場合、必ずしもうまくいくとは限りません。空室になってしまうリスクや、建物が劣化していくと人気エリアでも入居希望者も周りの物件と比べられますので、家賃を低くしないと空室が埋まりにくくなり、賃料から得られる収益性が落ちてしまうことも多くあります。金額が大きくなれば、その分節税効果も大きくなりますが、リスクも大きくなり、経営は簡単ではありません。
不動産を所有し続ける場合、固定資産税や修繕費などのコストがかかります。建築のために金融機関から借入金を活用した場合、債務に対する金利が上昇する可能性もあります。金利が上がると借金に対するコストも大きくなりますので、金利が高くなってしまった場合に、ローンの金利も差し引いて利回りがいくらくらいになるかシミュレーションをしておくことも重要です。
相続がうまくいっても、その後、借入金を引き継いだ子や孫にとっても大きい負担となる可能性があります。賃料として得た収入は他のことに使ってしまうのではなく、借入金の返済や修繕費、納税にあてるために資金を貯めておく必要があるでしょう。
不動産事業自体に失敗して、結果的に抑えることができる税金以上に損失を出してしまうリスクもありますので、周辺の賃貸需要などを十分に確認して、事業を始めるようにしましょう。
相続税対策は税理士に相談を
相続税の課税の制度や特例は非常に複雑ですので、相続税の相談は専門家である税理士のサポートを受けて行うことをおすすめします。相続税の改正についても知識と最新の情報を持つ税理士に依頼することで的を得た対策を行うことができ、安心です。
また、相続税対策は内容によっては長い期間をかけて行う必要があります。選択肢も多いために、数ある方法から、メリットとデメリットを比較して早めに最前の方法を判断して始めることが重要です。初回の相談は無料で応じてくれる場合が多いので、まずはお気軽に税理士に相談をしてみるとよいでしょう。税理士の紹介を受けることが難しい場合は、税理士事務所のホームページを確認し、相続税に強い税理士に依頼すると良いでしょう。
また、相続発生後は原則、10ヵ月の期限内に税務署に書類を提出し、相続税の申告を完了させる必要があります。賃貸マンションなどの評価は複雑ですので、生前に税理士に対策を依頼しておくことで、相続税の評価や相続発生後の登記や銀行の手続きもスムーズに進めることができます。