財産が基礎控除を上回る場合、相続税を支払う必要があります。しかし、生前の相続対策で相続税を減らすことも可能です。生命保険の非課税枠と並び、相続税対策として有効とされている手段のひとつが土地や建物などの不動産を活用した節税です。特に預貯金が相続財産の大半を占める方は不動産を活用することで、相続税を抑えることが可能です。
しかし、不動産を活用した相続税対策は、ポイントをおさえて対策を行わないと思わぬ落とし穴にはまってしまう可能性があります。
今回は不動産を活用した相続税対策の仕組みやより効果的に節税する方法について解説します。
不動産で相続税を節税できる仕組み
まずは不動産を活用することで、なぜ相続税の節税ができるのか、具体的に解説していきます。
不動産を活用することで、相続税の節税ができる理由は不動産の時価と相続税評価額に差があるからです。土地の相続税評価は路線価と面積を掛け合わせて計算をします。路線価は時価の8割程度といわれています。路線価は人通りや車の通りが多い道路ほど高い価格がつく傾向があります。
建物は固定資産税評価額で相続税評価をします。固定資産税評価額は時価の7割程度となることが多いです。
不動産を購入することで、現金が減り、不動産を取得することになりますが、不動産の評価は実勢価格よりも低いため、購入した時点で課税対象となる財産の評価額が下がります。
例えば、土地部分5,000万円、建物部分5,000万円(合計1億円)の不動産を購入したとしましょう。このケースでは、土地部分が4,000万円程度の評価となり、建物部分は3,500万円程度の評価となります。
土地建物合計の評価額は7,500万円となり、相続財産の評価額を2,500万円程度圧縮する効果があります。不動産を購入した時点で相続財産の圧縮ができますので、時間をかけずに相続税を圧縮できるという点も、不動産を活用した相続税対策の特徴といえるでしょう。
土地部分よりも建物部分の方が節税効果は大きいため、同じくらいの金額の不動産でも、一戸建てよりもマンションの一室を所有する方が節税のメリットが大きくなります。
また、マンションの一室の場合、上の階に行けば行くほど時価は上がっていく傾向がありますが、相続税評価はかわりませんので、同じマンションであれば、下の階よりも上の階の方が節税効果が高くなる傾向があります。
不動産で節税効果を高める方法
次に節税効果を高める方法について、具体的に確認していきましょう。
融資を受けて規模の大きい不動産を保有する
不動産を購入することで、相続財産の圧縮できるということがわかっていても、実際には規模の大きな不動産は金額も大きくなるため、現金で購入できる人は少ないでしょう。
そのような場合は、融資を受けて不動産を購入するということも可能です。融資を受けることで、手元に現金が無くても不動産を購入することが可能です。
銀行などの金融機関と付き合いが無い場合は、不動産業者から金融機関の紹介を受けることも可能です。
建物を他人に貸すことで更に評価を下げることができる
不動産は土地の上に賃貸マンション等の建物を建築し、住宅として人に貸すことでさらに評価を下げることができます。建物を人に貸している土地は貸家建付地として更地よりも評価が下がります。
貸家建付地の評価は以下の式で計算をします。
自用地評価額-(自用地評価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
借地権割合は土地によって異なりますが、路線価図で確認することができます。借家家割合は全国一律で30%で賃貸割合は稼働している部屋の割合のことですので、満室の場合は100%となります。
1億円の土地で借地権割合が70%の土地で満室の場合、以下の計算となります。
1億円-(1億円×70%×30%×100%)=7,900万円
土地は時価の80程度とされていますが、駐車場等の更地よりも貸家建付地として評価することで、さらに評価を下げることができます。
小規模宅地の特例を活用する
不動産には小規模宅地の特例という制度があり、特例を利用することで、一定の評価額を減額することができます。小規模宅地の特例を適用できるのは、自宅用の不動産や事業の事務所用や他人に貸し付けている宅地等です。上限面積と減額される割合はそれぞれ以下の表の通りです。
土地の種類 |
上限面積 |
減額割合 |
特定居住用宅地 |
330㎡ |
80% |
不動産貸付以外の事業用宅地 |
400㎡ |
80% |
不動産貸付用宅地 |
400㎡ |
50% |
例えば、自宅として使用する場合の特定居住用宅地であれば、自宅用の土地は330㎡まで80%減額することができます。賃貸で住まれている方が自宅用として宅地を購入することで、相続財産の評価を大幅に圧縮することが可能です。
ただし、同居の配偶者以外が財産を相続する場合、特例を適用するためにさまざまな要件がありますので、詳細は国税庁のHPで確認するか税理士などの専門家に相談するようにしましょう。
特例を利用することができれば、評価額をさらに低く下げることができますので、相続人の税負担を少なくすることができます。
国税庁HP
生前贈与を合わせて活用する
自宅とは別に不動産を購入した場合、収益物件として利益をあげることができます。収益物件から得た賃料を非課税となる年間110万円以内の範囲で生前に贈与をしたり、相続時精算課税制度等の特例を活用したりして相続人に財産を移転することも有効な手段です。
相続時精算課税制度とは親や祖父母等から子や孫などに2,500万円まで一括で贈与でき、贈与税ではなく、相続税の課税対象とする制度です。年間110万円まで非課税となる暦年課税は相続開始前3年以内の贈与は相続税の対象となりますが、相続時精算課税制度には同じように3年間の縛りはありません。
お金を渡すよりも収益を生む不動産を事前に下の世代に移転させておくことで、贈与した後の収益は下の世代が受け取ることができます。結果的に上の世代の財産が増えないため、相続人にかかる相続税を減らすことができます。
不動産とあわせて生前贈与を行って、更なる節税につなげることができます。
不動産で節税をする際の注意点
不動産で節税をする際に注意しておくべき点について解説します。
節税効果以上に損失が出る場合もある
不動産で節税をする場合、他人に貸すことも多いでしょう。自分で住んでいない不動産は投資用物件として経営していくことになります。結果として投資自体に失敗して節税効果以上に損失を被る場合もあります。
空室が長く続き収入が得られない場合も、固定資産税や仲介手数料などの費用かかったり、天変地異で建物に大きな被害が出たりする場合もあります。また、地域によっては人口減少によって時価が値下がりしやすくなっている場合もあり、購入時の価値を維持できるとは限りません。
不動産投資の損失が相続税の節税効果以上に出てしまう可能性もあります。不動産業者から物件を紹介される際の利回りは満室を想定して表示されていることも多く、希望的な観測である場合もあります。また、相続税をできるだけ抑えようとして、規模の大きな不動産を購入するとそれだけリスクも大きくなります。財産の総額に対して適切な範囲で不動産を購入することが重要です。
物件の種類によってリスクも異なります。また、1億円の物件よりも2億円の物件と規模が大きくなればなるほど、節税効果も大きくなりますが、リスクも大きくなります。借入金を入れることで金利上昇のリスクもあります。
節税効果だけでなく、リスクにも気を配りながら購入の判断をする必要があります。
分割方法も事前に検討しておく
相続人が2人以上いる場合は、遺産分割も事前に検討しておくほうがよいでしょう。
不動産は共有で相続することもできますが、共有にした場合、相続人間で意見が分かれた場合に売却できないなど、不便も多くなります。相続人の数が多い場合は、協議が難航し関係が悪化する場合も多く、注意が必要です。
しかし、アパートなど大規模な物件で、不動産が遺産の中で多くの割合を占める場合、不動産を単独で相続することで、相続人間で不公平が生じる場合があります。融資を設定している場合は融資も含めて検討する必要があるでしょう。
不動産を使った相続税対策は税額を軽減することができますが、分け方が難しくなる場合もあります。財産を一覧にして、財産の総額を確認し、誰に、どのように財産を分けるかも事前にシミュレーションしておくことをおすすめします。分け方をより明確にするために遺言書を書いていくおくと良いでしょう。
遺言書の書き方がわからない方は、遺言等の法律に詳しい、弁護士や司法書士、税理士などに相談するようにしましょう。
申告や手続きが複雑になる
不動産は預金などの資産に比べると評価が難しく、申告手続きが複雑になります。相続税は被相続人の死亡の後10カ月以内という短い期間で税務署に資料を提出するなどの対応を行う必要があります。被相続人が亡くなったあとは、親族はなにかと忙しいものですので、相続人の負担は大きくなります。
また、不動産は登記を行う必要もあるため、不動産関連の書類を集めるなど、手続きも複雑になり、相続人の負担が増えます。
不動産を承継する場合は相続人にも、申告手続きやその後の管理について説明しておく必要があるでしょう。正確に申告や納税ができなければ、税務調査などで指摘される可能性もあります。
普段から投資用不動産などの所得税の確定申告を依頼している税理士などがいる場合は、相続発生後も税理士のサポートを受けられるようにしておきましょう。
不動産で節税をする際は専門家に相談を
不動産での節税は税に対する専門的な知識が必要です。土地を購入したり、保有する土地に建物を建築したりする場合は、多額の資金をまとめて投じることになりますので、リスクもふまえて行う必要があります。
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