相続税対策として有効な選択肢となるのが生前贈与です。生前贈与は実際に節税対策として有効な手段ではありますが、注意点もあります。
当記事では生前贈与のメリットや注意点について解説します。
相続税対策=生前贈与、という考えは本当に正しいのか
相続税対策と聞くと、「生前贈与をすれば税金が安くなる」というイメージを持つ方は少なくありません。実際、書籍やネット記事、金融機関の案内でも、生前贈与が相続税対策として紹介されることは多くあります。
しかし、生前贈与はすべての人にとって有効な対策ではありません。
むしろ、状況によっては「やらなくてよかった」「やらなければ損をしなかった」という結果になるケースもあります。
生前贈与が「万能な節税策」と思われがちな理由
生前贈与が万能だと思われやすい理由には、次のような背景があります。
これらは一部事実ではありますが、条件や前提を無視すると誤解につながる情報でもあります。
相続税対策は“贈与ありき”で考えると失敗しやすい
相続税対策を考える際に、最初から「生前贈与をする前提」で動いてしまうと、次のような落とし穴にはまりやすくなります。
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そもそも相続税がかからない家庭だった
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贈与税の方が高くついてしまった
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他の有利な特例を活かせなくなった
大切なのは、「生前贈与をするかどうか」ではなく、「相続税が本当に問題になるのか」から考えることです。
まず整理すべき「相続税がかかるかどうか」
相続税対策を始める前に、最初に確認すべきことは非常にシンプルです。
それは、相続税が発生する可能性があるのかどうかです。
意外に思われるかもしれませんが、日本では相続税がかかる家庭は一部に限られています。
相続税の基礎控除と法定相続人の考え方
相続税には「基礎控除」があり、次の計算式で決まります。
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
たとえば、配偶者と子ども2人が相続人の場合、基礎控除は4,800万円になります。
この範囲内に遺産総額が収まるのであれば、相続税はかかりません。
生前贈与をしなくても相続税がかからないケース
次のようなケースでは、生前贈与をしなくても相続税が発生しないことが多くあります。
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遺産総額が基礎控除以内
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主な財産が自宅不動産で評価額が低い
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配偶者が大部分を相続する
この場合、無理に生前贈与をすると、かえって手続きや税負担が増えることもあります。
不動産評価で相続税が発生するパターン
一方で、相続税がかかるかどうかは、不動産の評価方法によって左右されることもあります。
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都市部の土地
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路線価が高いエリア
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賃貸不動産を複数所有している場合
「現金は少ないから大丈夫」と思っていても、不動産評価で基礎控除を超えてしまうケースは少なくありません。
生前贈与と相続税の基本的な関係
生前贈与は、相続時点の財産を減らすという意味では、相続税対策になり得ます。
ただし、それは一定の条件を満たした場合に限られるという点が重要です。
なぜ生前贈与が相続税対策になると言われるのか
生前贈与が相続税対策になる理由は主に次の2点です。
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将来相続される財産を減らせる
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長期間にわたって少額ずつ移転できる
特に、長期・計画的に行う場合は、一定の効果が期待できます。
贈与税と相続税は別の税金である
よくある誤解のひとつが、「贈与は相続とは別だから税金が軽い」という考えです。
実際には、
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贈与税は相続税より税率が高い
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非課税枠を超えると急激に税負担が増える
という特徴があります。安易な贈与は、相続税より重い税金を招くこともあるのです。
「贈与したから相続税は関係ない」は誤解
「もう贈与したから相続税は関係ない」と考えるのは危険です。
一定期間内の贈与は、相続税の計算上、相続財産に加算(持ち戻し)される仕組みがあります。暦年贈与の場合、相続発生前7年以内に相続により財産を受け取る人に贈与があった場合、相続税の課税対象となります。
生前贈与をするときに必ず理解すべきルール
生前贈与を検討する場合、最低限押さえておくべきルールがあります。
ここを理解しないまま進めるのは非常に危険です。
暦年贈与の仕組みと非課税枠
暦年贈与では、1人あたり年間110万円までが非課税です。
ただし、
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毎年同額を同時期に贈与している
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贈与の事実を示す記録がない
といった場合、定期贈与と判断されるリスクがあります。
相続時精算課税制度の特徴と注意点
相続時精算課税制度は、2,500万円まで贈与税がかからない制度です。
一方で、
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一度選択すると原則として撤回できない
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年間110万円までは非課税で贈与が可能
制度改正により、非課税枠が設けられたため、非常に使いやすい制度となりました。
相続開始前7年以内の贈与が持ち戻される仕組み
相続開始前一定期間以内の贈与は、相続税の計算に含められます。
この「持ち戻し」の存在を知らずに贈与すると、相続税が減らないどころか、手間だけが増えることになります。持ち戻しは暦年贈与の場合にのみ課税され、相続時精算課税制度を活用した場合は持ち戻しはありません。
相続税対策のつもりが逆効果になるケース
生前贈与は、正しく使えば有効ですが、誤ると逆効果になります。
贈与税を払いすぎてしまうケース
非課税枠を超えて贈与してしまい、想定以上の贈与税が発生するケースは非常に多く見られます。
「相続税より安いはず」という思い込みが原因です。
不動産や現金を安易に贈与してしまったケース
不動産を贈与すると、登録免許税や不動産取得税など、相続より重い負担が生じることがあります。
現金も、贈与後の管理や使途でトラブルになることがあります。
家族間トラブルを招いてしまうケース
特定の家族だけに贈与をすると、
といった問題が起こりやすくなります。
税金だけでなく、家族関係への影響も含めて考える必要があります。
生前贈与よりも優先して検討すべき相続税対策
相続税対策というと、生前贈与が真っ先に思い浮かびがちですが、実務上は生前贈与よりも優先順位の高い対策が存在します。
これらを十分に検討しないまま贈与を始めてしまうと、本来使えたはずの有利な制度を活かせなくなることもあります。
配偶者控除や小規模宅地等の特例の影響
相続税には、生前贈与では代替できない強力な特例があります。
特に配偶者控除は、一定の範囲まで相続税がかからない制度であり、相続税対策の中でも最優先で検討すべきものです。これらの特例を前提に試算すると、「生前贈与をしなくても相続税が大幅に軽減される」ケースは少なくありません。
生命保険を活用した非課税枠の考え方
生命保険には、「500万円 × 法定相続人の数」
という非課税枠があります。
この非課税枠は、
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現金を渡すのと同じ効果がある
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相続税の計算上、非常に扱いやすい
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遺産分割トラブルを防ぎやすい
といった特徴があり、生前贈与よりも使いやすい相続税対策になることも多いです。
遺産分割の方法で相続税が変わることもある
相続税は、誰がどの財産を取得するかによっても変わります。
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配偶者が取得する割合
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特例を適用できる形で分割できるか
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分割内容が現実的か
遺産分割の工夫だけで税額が大きく変わることもあり、生前贈与をする前に検討すべき重要なポイントです。
生前贈与が有効になりやすいケースとは
ここまで見てきた通り、生前贈与は万能ではありません。
ただし、条件がそろえば、有効な相続税対策になり得るのも事実です。
相続税が確実にかかると分かっている場合
財産評価や試算の結果、
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基礎控除を大きく超える
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特例を使っても相続税が残る
といった場合には、生前贈与を検討する意味があります。
この場合でも、「どの財産を、誰に、どの方法で」贈与するかの検討が不可欠です。
長期間・計画的に贈与できる場合
生前贈与は、短期間で行うと効果が薄く、リスクが高くなります。
一方で、10年、15年といった長期間にわたって、計画的に行える場合は、相続財産を着実に減らす効果が期待できます。
将来の資産構成が明確な場合
今後の資産の動きがある程度見えている場合も、生前贈与は検討しやすくなります。
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大きな資産の売却予定がある
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収益不動産の整理計画がある
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相続人の構成が変わる可能性が低い
将来が不透明な状態での贈与は、判断を誤りやすくなります。
生前贈与を始める前に確認しておきたいチェックポイント
生前贈与を始める前には、必ず次の点を整理しておく必要があります。
現在の財産総額と相続税の概算
まずは、
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現在の財産をすべて洗い出す
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相続税がどれくらいかかりそうか概算する
この作業をしないままの生前贈与は、目的のない節税行為になってしまいます。
贈与後の生活資金・老後資金は足りるか
生前贈与で見落とされがちなのが、贈与する側の生活です。
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老後資金が不足しないか
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医療・介護費用への備えは十分か
「子どものため」に贈与した結果、将来の生活が不安定になるケースも現実にあります。
贈与内容を家族で共有できているか
贈与は税金の問題であると同時に、家族関係の問題でもあります。
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誰に、いくら、なぜ贈与するのか
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他の家族は納得しているか
説明不足は、相続時のトラブルにつながりやすくなります。
判断に迷ったら専門家に相談すべき理由
生前贈与を含む相続税対策は、一般論だけでは判断できません。
相続税と贈与税は個別判断が不可欠
財産の内容、家族構成、将来の見通しによって、最適解は大きく変わります。
インターネットの情報だけで判断するのは危険です。
「節税になると思った」が一番危険
実務で最も多い失敗は、
「節税になると思ってやったら、逆に損をした」
というケースです。
この思い込みを避けることが、最大の相続税対策とも言えます。
早めの相談が選択肢を広げる
相続対策は、早ければ早いほど選択肢が広がります。
生前贈与も、「やる・やらない」を含めて、冷静に検討できる余地が生まれます。
制度を使う前に理解しておきたい「実務上の落とし穴」
生前贈与は、課税の仕組みや申告のルールを正しく理解していないと、思わぬ不利益を受けることがあります。
特に、受ける側(受贈者)が子や祖父母などの直系尊属・直系卑属である場合、適用される制度や要件が異なり、注意が必要です。
贈与契約は「作成」と「証拠」が重要
生前贈与は、口約束では成立しません。
贈与契約書を作成し、誰が(親・父母・祖父母など)、誰に(子など)、いくらを、いつ贈与したのかを明確にしておくことが重要です。
特に預金の贈与では、
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名義が受贈者になっているか
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実際に管理・使用しているのが誰か
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贈与契約に基づいているか
といった点が税務署にチェックされます。
名義だけを変えた預金は、贈与ではなく「名義預金」と判断され、被相続人の財産に戻る可能性があります。
税制改正で変わるルールにも注意
生前贈与をめぐる税制は、税制改正によって見直されることがあります。
特に、相続開始前の一定期間以内の贈与が持ち戻されるルールは、改正によって対象期間が延長されるなど、実務への影響が大きい分野です。
「昔はこうだった」という情報だけで判断すると、現在の制度とは異なり、想定外の課税を受けることがあります。
株式・住宅など「現金以外」の贈与は慎重に
株式や住宅など、価格や価値が変動する財産を生前に贈与する場合は、特に注意が必要です。
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贈与時点の評価額
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将来の値上がり・値下がり
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居住用かどうか
それぞれによって税負担やメリットが大きく異なります。
住宅取得資金の特例などを受ける場合も、期限や提出書類を守らなければ特別控除は受けられません。
申告・提出・翌年の手続きも忘れずに
生前贈与では、「非課税だから申告は不要」と思われがちですが、制度によっては申告や書類の提出が必須です。
請求や提出を怠っただけで、本来使えた制度が使えなくなるケースもあります。
遺留分との関係も無視できない
特定の子や親だけに生前贈与を集中させると、遺留分の問題が生じることがあります。
生前に贈与した財産が、相続時に「特別受益」として扱われ、他の相続人から請求を受ける可能性もあります。
税金だけでなく、家族関係や将来の安心まで含めて検討することが重要です。
自分だけで判断せず、専門家に相談する価値
生前贈与は、
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課税・非課税の判断
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制度ごとの要件
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税務署対応
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相続全体とのバランス
を総合的に考える必要があります。
「みなさがやっているから」「メリットがありそうだから」という理由だけで判断せず、早い段階で専門家に相談することで、後悔のない選択につながります。
まとめ|相続税対策は「生前贈与ありき」で考えない
相続税対策で最も大切なのは、順番を間違えないことです。
まずは相続税がかかるかを把握する
すべてはここから始まります。
相続税がかからない、あるいは特例で十分対応できるのであれば、生前贈与は不要な場合も多くあります。
生前贈与は数ある手段の一つにすぎない
生前贈与は、相続税対策の「答え」ではなく、選択肢の一つです。
他の制度や家族状況と組み合わせて、はじめて意味を持ちます。
生前贈与を行うべきかどうか迷う場合は専門家に相談するようにしましょう。
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