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暦年贈与とは?税理士が注意点を解説!

2024年06月09日

さまざまな相続税対策の中でも暦年贈与の仕組みを利用して節税をしている人も多いです。

生前に暦年贈与を行うことで、相続が発生した際に課税対象となる財産を減らし、納税する金額を減らすことができます。確かに税金の負担をいくらか減らすことができますが、注意点も多くあります。当記事では暦年贈与の概要や暦年贈与をする際の注意点についてポイントをおさえて解説します。

暦年贈与とは

暦年贈与とは贈与税の課税制度の一つです。暦年贈与は相続時精算課税制度と選択制になっており、相続時精算課税制度を選択した場合、暦年贈与に戻ることはできません。相続時精算課税制度を選択する場合は、相続時精算課税制度を選択する旨、税務署に届け出る必要がありますが、何も手続きをしなければ暦年贈与を選択することになります。

暦年贈与は毎年1月1日から12月31日までの間の贈与について贈与を受け、財産として取得した金額に対して税率が定められており、贈与を受けた者が税金を支払う義務があります。

暦年贈与は累進課税となっており、贈与額が大きいほど税率も高くなりますが、1年間で110万円の非課税枠となる基礎控除が設定されており、相続発生前に控除の範囲内で贈与を行うことで、財産を次の世代に遺すことができます。

暦年贈与は財産を受ける人に対して計算して課税されますので、多くの人に贈与をした場合でもそれぞれの金額が年間110万円以内であれば贈与税が課されることはありません。例えば、推定相続人となる配偶者、子ども二人だけでなく孫4人に110万円ずつ贈与する場合、合計で770万円贈与することになりますが、あくまでもらった側は一人当たり110万円以内におさまっているため、贈与税はかかりません。

このように多くの人に長い期間をかけて贈与をすることで、資産を圧縮することができ、相続税対策としての軽減効果が大きくなります。なお、110万円を超える贈与を行った場合は、財産を取得した人が一定の税率をかけあわせた贈与税の申告をする必要があります。例えば、贈与により210万円の現金を取得した場合は110万円を控除した100万円に対し贈与税がかかります。110万円を超える贈与契約を行う場合は、先にどれくらいの贈与税になるか確認しておきましょう。

暦年贈与の注意点

暦年贈与を行う場合にどのような点に注意をすればよいのでしょうか。暦年贈与の注意点やデメリットについて具体的に確認しておきましょう。

相続発生前7年以内の贈与は相続税に加算される

暦年贈与には相続により財産を取得する者が相続発生前7年以内に受けた贈与は相続税に加算されるという繰り戻しの制度があります。繰り戻し制度は2023年までは3年でしたが、税制改正により2024年以降は7年に延長されており、暦年贈与を活用した相続税対策を行う場合は、早めから対応して生前贈与を行わないと、贈与をした後7年以内に死亡してしまうと効果が得られなくなってしまうというリスクがあります。

ただし、繰り戻しが適用されるのは相続財産を取得する者に限られていますので、財産を取得しない相続人や孫などに贈与をするバイアは相続財産に繰り戻されることはありません。孫に贈与をする場合も遺言などにより孫に遺贈する場合や代襲相続や養子縁組により相続人として財産を受け取った場合は繰り戻しの対象となりますので注意が必要です。

不公平が生じるとトラブルになる可能性がある

相続人間で贈与を受ける資金に偏りがでて不公平となった場合、相続が発生した際に相続人間でトラブルになるケースも多くありますので、注意しましょう。

自分が亡くなった後に贈与によりトラブルになる可能性がある場合は、事前に遺言書を作成して配分を明確にしておくとよいでしょう。遺産の分割には贈与した金額は含まずに話し合いを行うケースも多いですが、一人が多くの贈与を受けている場合は、相続時点で解消するべきと考える人も多くいます。

贈与を行うことによって法定相続通りに配分できなくなる可能性がありますので、相続人間の関係が悪化しないように検討するようにしましょう。

名義預金として指摘される可能性がある

財産を贈与しているにもかかわらず通帳や印鑑などを贈与者が保管しているケースでは、税務調査で指摘があった場合、名義借りをしているだけとみなされて贈与が成立していないとみなされる可能性があります。

贈与が成立する要件は口頭でも認められていますので、必ず契約書を作成する必要はありませんが、税務署から指摘を受けないためにも契約書などの証拠書類を作成しておくとよいでしょう。

暦年贈与以外の方法

暦年贈与以外にスムーズに財産を承継する方法はどのようなものがあるのでしょうか。以下に具体的に解説していきますので参考にしてみてください。

生命保険の非課税枠

生命保険には法定相続人×500万円の非課税枠があります。財産の総額が相続税の基礎控除(3,000万円+法定相続人×600万円)と生命保険の非課税枠の範囲内に収まるのであれば、相続税はかからないため、相続税対策として生前贈与を行う必要はありません。

一方で基礎控除と生命保険の非課税枠を合計しても、被相続人の資産が超えてしまい相続税がかかる場合は、加えて贈与を行うことで相続税の節税をすることができます。

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度は60歳以上の父母等から18歳以上の子等が贈与で受けた金額を相続財産に加算して相続税として支払う制度です。従来は使い勝手が悪く、あまり使われていない制度でしたが2024年の税制改正で基礎控除の110万円が新設されたことで、今後利用する人が見込まれる制度です。

相続時精算課税制度は暦年贈与のように7年の繰り戻しがありませんので、メリットが大きく今後一般的に利用される制度となる可能性があります。

相続時精算課税制度では2,500万円までの範囲で、贈与した財産を相続税の対象として課税することができるため事業を行っており、今後成長が期待できる株式や継続的に収益を生む土地や建物を早めに贈与することで、スムーズに資産の承継を出来るケースもあります。

相続時精算課税制度と暦年贈与は併用することができません。また、一度相続時精算課税制度を選択すると将来、暦年課税制度に変更することはできませんので慎重に検討して選択するようにしましょう。

贈与の特例制度

贈与税には贈与の相手や理由によって特別控除を受けることができる多くの特例があり、特例をうまく利用することで、相続が発生した際に相続人が支払う税額を大きく抑えることができます。

代表的なものでは、教育取得資金贈与の特例は教育資金に限り1,500万円を限度に祖父母など直系尊属から孫などに非課税で一括贈与ができる制度です。金融機関で手続きは必要となりますが、一括で大きな資金を移転することができるため、非常に節税効果の大きい制度です。

他にも親や祖父母などから子や孫の自宅不動産を購入するための贈与であれば最大1,000万円一括で贈与を行うことができる住宅取得資金贈与の特例や結婚・子育て資金に限り、1,000万円まで一括で贈与できる制度もあります。

これらの特例を利用する場合は税務署への届出など手続きが必要ですが、うまく活用することで、資産を圧縮し、実際に納付する税金を抑えることができます。

贈与を行う前に税理士に相談を

生前贈与は相続税対策として有効な手段のひとつです。制度については国税庁のホームページに記載されていますが、仕組みも複雑で、誤った解釈で贈与を行うと、実際に相続が発生した後に相続人が税務署から指摘を受ける可能性もあります。今後の改正の可能性もありますので、相続開始まで常に最新の情報を確認しておくことも重要です。

また、相続税対策としてどれくらいの効果を生むかを事前に財産を評価し一覧の表にまとめたものを作成し、シミュレーションを行ってから贈与の金額や人数などの内容を決めた方がよいでしょう。知識がない人が課税制度を理解し、しっかりとしたプランをたてて対策を行うことは簡単ではありません。そのため、自分で行うことが難しいと判断した場合は税理士など専門家にサポートを依頼し、進めた方が安心です。

相続税の申告をする際にも税理士に依頼することで配偶者控除や居住用や事業用不動産の評価を減らすことができる小規模宅地の特例など各種特例を漏れなく利用して節税することが可能です。相続発生後は10ヶ月という期限があり、短い間で書類を作成するなど様々な手続きを進める必要があるため、税務の専門家である税理士に手続を依頼したほうが良いでしょう。

税理士にも専門分野がありますので、申告実績が豊富で、相続税・贈与税に強い税理士事務所・税理士法人を探すようにしましょう。初回の相談はサービスで無料で応じてくれるケースが多いので、まずは電話などでお気軽に相談してみることをおすすめします。

筆者情報

氏名:山根 謙二 (やまね けんじ)

資格:税理士(税理士登録番号92527号)
   行政書士(行政書士登録番号18342346号)
   相続手続カウンセラ-

専門分野:相続税、事業承継

出身:広島県廿日市市

趣味:ゴルフ、旅行(海の綺麗な所)

お客様に一言:相続の事なら何でもご相談下さい