依頼者・関係者
相談者は、広島市在住の50代の女性Aさんと妹Bさん
被相続人(亡くなった人)は父
相続人はAさんとBさん
Aさんは父と同居している
お二人の職業は、Aさんは会社員、Bさんは個人事業主(美容室経営)
相続財産の内訳
金融資産 500万円
自宅不動産 3,000万円
合計 3,500万円
相談状況・内容
AさんとBさんは、お父様が亡くなられ後、相続した不動産を登記する為に、弊所グル-プの司法書士の所に来所されました。
その後、司法書士から相続登記後に売却を検討しているので税金の問題が何か発生するかもしれないので一緒に話を聞いて欲しいと言われ同席することになりました。
Aさんは父と同居していましたが1人で住むのには広すぎるので売却を検討されていました。
また、その際の売却代金をAさんとBさんが半分づつ分ける事を決められていました。
この様な場合に、不動産の売却に伴う税金の負担を抑え、1円でも多く手取額を残す為に、何か気を付ける事はないかというのが相談内容でした。
ご提案・解決方法
まず、今回の不動産売却において、気を付けるべきことを2点説明しました。
① 税金について
〇 長期譲渡所得(注1)に該当し、売却益に対して20.315%が課税される事。
〇 分割方法によって居住用財産の3,000万円控除の特例(注2)が適用出来る可能性がある事。
居住用不動産を売却した場合には、売却益から3,000万円を控除できる制度です。
② 社会保険について
会社員が会社で加入する社会保険については、不動産を売却し、売却益が発生しても社会保険料に変更がない事。
会社員は、増額(追加)されません!
一方、個人事業主の国民健康保険は、不動産を売却して売却益が発生した場合には、現状よりも国民健康保険が高額になる可能性がある事。
個人事業主は、増額(追加)されます!
次に、分割方法の違いにより税金、社会保険が変わることを説明しました。
① 分割パターン1:不動産を1/2づつ相続し売却した場合
Aさんは同居していた為、居住用不動産の特例により売却益に対して税金の負担はありません。
また、会社員で社会保険の為、保険料が増加することもありません。
問題は、Bさんです。
Bさんの場合は、売却益(1,500万円)に対して譲渡所得税が289万円課税されます。
更に、Bさんは、個人事業主なので、売却代金(利益)により、国民健康保険が増額され、保険料が最高限度額の99万円になることを説明しました。
税金と保険の合計の支払額が何と約388万円になるのです!
以上から、AさんとBさんの手取りは、Aさん1,500万円、Bさん1,112万円となります。
② 分割パタ-ン2:不動産をAさんが全て相続し、売却代金の1/2を代償金としてBさんに渡す場合
Aさんは、上記①と同じですが、居住用不動産の特例により売却益に対して税金の負担はなく、社会保険料が増加することもはありません。
また、Bさんも、代償金としてお金をもらうだけなので、売却益に対する税金や国民健康保険の増加もありません。
以上から、AさんとBさんの手取りは、各々1,500万円づつとなります。
上記①と➁では、分割方法の違いによって、約388万円手取りが変わる事を説明しました。
結果
AさんとBさんは、分割方法の違いによってこれだけ手取りが変わる事にびっくりされました。
その結果、何も迷うことなく、上記②の分割パタ-ンで相続されました。
その後、予定通りに不動産を3,000万円で売却し、税金等の負担なしで売却代金を半分づつ分ける事が出来て、大変喜ばれていました。
最後に、今回のケースの様に、相続財産が相続税の基礎控除額以下の場合には、相続税の申告が不要なので税理士に相談をされない方が多いのではないかと思います。
その結果、上記①の様な分割方法を行い、知らいない間に大損をするケースがあるかもしれません。
不動産を売却する場合、特に、相続発生後については、税理士に相談する事をお勧めします。
参考法令他
(注1) 長期譲渡所得の計算 国税庁HP:NO.3208
課税長期譲渡所得金額=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除
税額=課税長期譲渡所得金額×20%(内、住民税5%)
尚、平成25年から令和19年までは、復興特別所得税として各年分の基準所得税額の2.1%を所得税と併せて申告・納付することになります。
(注2)居住用不動産の特例 国税庁HP:NO.3302
マイホーム(居住用財産)を売ったときは、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除ができる特例があります。
(注3)広島市の国民健康保険料
令和3年度の広島市国民健康保険料の最高限度額(1世帯あたり)は99万円(医療分63万円、支援分19万円、介護分17万円。)です。
なお、世帯に40歳以上65歳未満の被保険者がいない場合は、82万円(医療分63万円、支援分19万円。)が最高限度額となります。