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軽度認知症の相続人との遺産分割は有効?

2025年03月29日

親や配偶者などが亡くなると民法で定められた相続人全員で遺産分割の話し合いや手続きを行う必要があります。しかし、相続人の中に重度の認知症の方がいる場合、遺産分割について協議することができず、手続きが進まないケースがあります。最近では高齢化により配偶者や兄弟などの相続人が認知症になっているケースも年々、増える傾向にあります。

一方で認知症にも症状の重さに個人差があります。軽度の認知症の人であれば遺産分割を行っても問題ないのでしょうか。当記事では認知症の相続人がいる場合の対策や注意点についてポイントをおさえて解説します。

意思能力があれば遺産分割は可能

認知症の診断をされている方でも症状については個人差があります。複雑な行為ができなくても遺産分割について説明を理解でき、意思を示すことができる人も多いです。軽度の認知症であれば、合意のうえ手続きを進めることができる場合があります。

ただし、その日の体調などによって理解度が低下する恐れがありますので、話し合いが成立し、遺産分割協議書に署名をしてもらえても相続財産を巡って後からトラブルになるケースも多くありますので、認知症の方がいる場合の手続きは簡単ではありません。また、実務上は認められる預金をしている銀行などが複数あるケースでは金融機関と名義変更等の手続きが認められない金融機関が出るケースもあります。

特に相続放棄をするケースは注意が必要です。親子関係であっても、相続においては親と子は利益が相反する者同士での話し合いとなりますので、曖昧な意思表示で勝手に相続放棄をしてしまうと後でトラブルになる可能性がありますのでしっかりと協議に参加してもらう必要があります。トラブルを回避するために自分だけで判断するのではなく、医師の診断や弁護士、司法書士、税理士など相続の専門家を交えて手続きを進めるほうがよいでしょう。

遺産分割協議ができない場合の対処方法

認知症など健康上の理由で遺産分割協議ができない場合は法定相続割合で遺産を分割するということも可能です。法定相続割合で分割するのであれば、遺産分割協議書を作成しなくても、不動産の登記も行うことができます。

一方で法定相続分どおりに遺産の分割を行うことで遺産分割協議書を作成する必要がないというメリットはあります。しかし、不動産の共有などによって後々、売却するか保有して活用するかなどで意見があわずトラブルになる可能性もあり、デメリットも大きいです。ます。特に東京や大阪などアクセスのよい場所に土地・建物がある場合は自宅を一人が相続するだけで財産の大半を占めるため法定相続割合と同じ割合で分けることが困難な場合もあります。

その後の処分などの問題があり法定相続割合通りで分割することが適切でない場合は、成年後見制度を利用して、成年後見人が認知症の相続人に代わって手続きを進めるという流れになります。

成年後見人を立てる際は家庭裁判所への申し立てが必要です。また、相続人は利益相反関係にあるため、成年後見人に選任されないケースも多く、司法書士など相続人以外の第三者に依頼すると費用がかかります。

また、成年後見人を立てると、その後の財産管理や重要な法律行為は成年後見人が代わりに行うこととなり、継続的に報酬を支払う必要があります。

将来、自分の意思能力がなくなった時に誰に後見をしてもらうかを決めておく任意後見という制度もあります。後見人を決めておきたい人は任意後見制度の利用を検討してみてもよいでしょう。

事前の対策が重要

成年後見を立てて手続きをすることになると費用面や手続きの面で家族に多くの負担がかかります。また、時間もかかりますので、財産が多く相続税の申告が必要な場合は期限に間に合わない可能性も生じます。期限に間に合わないと、節税ができる特例や控除が利用できなくなることがあります。

そのため、生前に対策を打っておくことが重要です。最も有効な対策が相続が発生する前に遺言を作成することです。遺言書を書いておくことで、本人が亡くなった時に分け方が明確になっているため、親族同士で話し合いをする必要がありません。話し合いにかかる時間を削減することができるため、認知症など手続きが難しい状態の相続人がいるケースや相続人同士が遠方に住んでいる状況の場合にはかなり負担を軽減することができます。

ただし、遺留分を侵害する内容の遺言書を作成しても遺留分を請求されると遺留分に相当する分を支払う必要があります。遺留分は被相続人が生前贈与を行っていた分も特別受益として計算に入れる必要がありますので注意しましょう。

本人が遺留分を請求しないと言っていても、相続発生時の意思能力を失っており、後見人が立てられている場合は後見人から被後見人の利益を考慮して遺留分を請求される例もあります。そのため、問題が生じるようなリスクがある遺言書は作成しないことをおすすめします。

また、遺言書に不備があり、法的に効力がなく、死後に希望どおりの配分を実現できないケースやどこにあるかわからず発見されない場合もあります。せっかく作っても無効になっては意味がありませんので、確実に有効な遺言書を作成する場合は公証役場で公正証書遺言を準備した方がよいでしょう。何から書いていいかわからないという方や記載する内容、書き方について専門家に相談したいという方は遺産相続に強い弁護士や司法書士、税理士に相談するか、信託銀行と契約し、遺言を作成してもらうという方法もあります。

相続が開始した後に預貯金など取引があった口座の名義変更を進めることが難しいというケースでは、執行を依頼することで、スムーズに手続きを進めることができます。父親や母親が認知症になっているケースでも司法書士などの第三者に手続きを依頼することで高齢の親から書類をもらうことなく手続きを進めることができますので手続きが面倒な場合は専門家に執行を依頼するとよいでしょう。

また、当面の資金を確保するために生命保険を契約することも有効な手段です。生命保険は受取人をあらかじめ確定させているのでですぐに死亡保険金を受け取ることができます。そのため、葬式の費用など当面必要な資金を用意するのに便利です。ただし、一人の相続人を多額の保険金の受取人にしていると他の兄弟など他の相続人と不公平が生じる可能性がありますので注意しましょう。

認知症の相続人がいる場合の手続きは専門家に相談を

認知症の相続人がいる場合、手続きが非常に難しい点も多く、対処法はあるものの時間もかかりますます。そのため、認知症の相続人がいる場合は早めに対処法について専門家に相談し、サポートを受けることが重要です。特に財産を調査した結果、財産の額が基礎控除を上回り相続税がかかる可能性が高い場合は相続発生後、原則10ヶ月以内と短い期限で資料を作成し税務署に申告書を提出するなど対応する必要があります。まずは財産をまとめた一覧を作成し、相続税がかかりそうな場合は税額の計算や申告の手続きが必要です。期間内に早めに手続きを進めるようにしましょう。

広島相続税相談テラスでは初回の相談無料で、相続に関するアドバイスをしています。相続に関する制度に精通した経験・実績豊富な税理士が多数所属しておりますので、スムーズに手続きを進められます。まずは電話やメールでお気軽にご連絡ください。

筆者情報

氏名:山根 謙二 (やまね けんじ)

資格:税理士(税理士登録番号92527号)
   行政書士(行政書士登録番号18342346号)
   相続手続カウンセラ-

専門分野:相続税、事業承継

出身:広島県廿日市市

趣味:ゴルフ、旅行(海の綺麗な所)

お客様に一言:相続の事なら何でもご相談下さい