相続税はあらゆる財産が課税対象となり、評価を行う必要があります。価格が日々変動する投資信託はどのような扱いをすればよいのでしょうか。当記事では投資信託の相続税評価について解説します。
投資信託は相続財産として相続税の課税対象になる
被相続人が保有していた投資信託は、現金や預貯金、株式などと同様に相続財産として扱われ、相続税の課税対象になります。
金融資産としての価値を持つため、死亡時点の評価額を算出し、相続税申告に含める必要があります。
なお、相続税は相続人が実際に換金したかどうかに関係なく、「相続開始時点の評価額」を基に計算されます。
相続税の対象となる金融資産の範囲
相続税の対象となる主な金融資産には次のようなものがあります。
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預貯金(普通預金・定期預金など)
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上場株式・ETF・REIT
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投資信託
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公社債・国債
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外貨預金
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暗号資産(仮想通貨)
-
生命保険金(一定額を超える部分)
投資信託もこれらと同様に、相続財産として評価されます。
投資信託が預貯金や株式と同様に扱われる理由
投資信託は、投資家から集めた資金を株式や債券などで運用する金融商品です。
保有者には、運用資産に応じた価値があり、換金可能な財産的価値を持ちます。
そのため税法上は、
-
預貯金 → 金銭的価値
-
株式 → 市場価値
-
投資信託 → 基準価額に基づく価値
として、いずれも相続税の課税対象になります。
投資信託の相続税評価の基本ルール
投資信託の相続税評価は、株式のような市場終値ではなく、基準価額を用いて算出します。
評価の基本原則:
-
被相続人の死亡日における価額を使用
-
保有口数を基準価額で換算
-
外貨建ての場合は為替換算を行う
- 解約した際に差し引かれる信託財産留保額や解約手数料がある場合は差し引く
評価の基準は「基準価額(NAV)」
投資信託の評価は、基準価額を用います。
基準価額とは:
👉 ファンドの純資産総額 ÷ 総口数
👉 1口あたりの価値
多くの投資信託では「1万口あたりの価格」で表示されます。
例:
-
基準価額:12,000円(1万口)
-
実際の1口価額:1.2円
相続税評価では、この基準価額を基に計算します。
評価時点はいつ?(被相続人の死亡日)
評価の基準日は、
被相続人が死亡した日(相続開始日)
です。
例えば:
これは相続税法における財産評価の原則です。
取引停止日・休日の場合の評価方法
死亡日が以下の場合:
➡ 原則として
直前の公表基準価額
を使用します。
例:
投資信託の評価額の計算方法
評価額は、基準価額と保有口数を用いて計算します。
評価額の基本計算式
■ 基本式
(※基準価額が1万口表示の場合)
口数の確認方法と残高証明書の見方
口数は以下の書類で確認できます。
✔ 証券会社の残高報告書
✔ 取引報告書
✔ 相続手続き時の残高証明書
残高証明書には通常:
が記載されており、相続税申告時の重要資料になります。
外貨建て投資信託の評価方法(為替換算)
外貨建てファンドの場合:
-
外貨ベースで評価額を算出
-
死亡日の為替レート(TTM)で円換算
■ 計算式
為替レートは通常、金融機関公表のTTMを使用します。
【具体例】投資信託の相続税評価額の計算例
ここでは実際の計算例を紹介します。
国内投資信託の計算例
■ 条件
-
基準価額:12,000円
-
保有口数:500,000口
■ 計算
12,000 × 500,000 ÷ 10,000
= 600,000円
👉 相続税評価額:60万円
外貨建て投資信託の計算例
■ 条件
-
評価額:10,000ドル
-
為替レート:1ドル=150円
■ 計算
10,000 × 150 = 1,500,000円
👉 相続税評価額:150万円
複数口座・複数ファンドを保有している場合
被相続人が複数の証券会社や銀行で投資信託を保有している場合は、
✔ すべての口座を確認
✔ 各ファンドごとに評価
✔ 合計額を相続財産に計上
する必要があります。
特に注意点:
-
ネット証券口座の見落とし
-
積立投資の残高
-
家族が把握していない口座
は相続手続きで問題になりやすいため、残高証明書の取得が重要です。
投資信託の評価で注意すべきポイント
投資信託の相続税評価は「基準価額×口数」が基本ですが、実務では価格変動・分配金・口座区分など、見落としやすいポイントがあります。
これらを理解しておかないと、評価誤りや税務上のトラブルにつながる可能性があります。
死亡日直後の価格変動は評価に影響する?
結論から言うと、
👉 死亡日後の価格変動は評価額に影響しません。
相続税評価は、
死亡日の基準価額
で確定します。
たとえば:
-
死亡日評価額:100万円
-
翌日:90万円に下落
→ 相続税評価額は100万円
逆に値上がりした場合でも評価額は変わりません。
これは「相続開始時点の価値」で評価するという相続税の原則によるものです。
分配金の取扱いと課税関係
分配金の扱いは、死亡日の前後で異なります。
■ 死亡日前に権利確定
→ 被相続人の財産として相続財産に含める
■ 死亡日後に権利確定
→ 相続人の所得として扱われる可能性あり
また、分配金には次の種類があります:
税務判断が必要なケースもあるため、証券会社の明細確認が重要です。
特定口座・一般口座の違いによる影響
相続税評価額自体は、口座区分に関係なく同じ方法で計算します。
しかし、相続後の税務処理には違いがあります。
| 区分 |
特徴 |
| 特定口座 |
取得価額や損益管理が引き継ぎやすい |
| 一般口座 |
取得価額を自分で管理する必要あり |
相続後に売却する予定がある場合、取得価額の確認が重要になります。
解約(換金)した場合の税務上の注意点
相続後に投資信託を解約しても、
👉 解約代金=相続税評価額
ではありません。
価格変動により差額が生じます。
■ 相続税評価額:100万円
■ 解約時:110万円
→ 10万円の差額は譲渡所得の対象
この差益には所得税・住民税が課税されます。
投資信託と株式・預金との評価方法の違い
金融資産ごとに相続税評価の考え方は異なります。
上場株式との評価方法の違い
| 項目 |
投資信託 |
上場株式 |
| 評価基準 |
基準価額 |
株価 |
| 評価方法 |
死亡日の基準価額 |
4つの価格のうち最も低い価格 |
| 市場影響 |
間接的 |
直接的 |
株式は相場変動の影響が大きいため、評価方法が複数用意されています。
預貯金との評価の考え方の違い
| 項目 |
投資信託 |
預貯金 |
| 価格変動 |
あり |
なし |
| 評価額 |
基準価額で算出 |
残高そのまま |
| 元本保証 |
なし |
あり |
預貯金は額面そのまま評価される点が大きく異なります。
それぞれの相続税評価の特徴
-
投資信託 → 市場価値を反映した評価
-
株式 → 市場価格を基準とした柔軟評価
-
預貯金 → 額面評価でシンプル
財産構成によって相続税額は大きく変わる可能性があります。
投資信託を相続する際の手続きの流れ
相続発生後は、金融機関での手続きが必要です。
金融機関への死亡連絡と口座凍結
被相続人の死亡を金融機関に連絡すると、口座は凍結されます。
凍結の目的:
その後、相続手続きに進みます。
名義変更または解約手続き
相続人は以下を選択できます。
■ 名義変更
→ 投資信託を引き継ぐ
■ 解約(換金)
→ 現金として分配
相続人間で分割方法を事前に決めておくことが重要です。
相続税申告に必要な書類
主な必要書類:
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残高証明書
-
取引報告書
-
被相続人の戸籍一式
-
遺産分割協議書
-
相続人の本人確認書類
証券会社ごとに必要書類が異なる場合があります。
投資信託の相続に関するよくある質問
評価額と実際に受け取る金額が違うのはなぜ?
評価額は死亡日時点の基準価額です。
その後:
により、実際の受取額は変わります。
相続後すぐに売却すると税金はかかる?
相続時の評価額が取得価額として引き継がれます。
そのため:
-
評価額と同額で売却 → 課税なし
-
値上がりして売却 → 譲渡所得課税あり
相続税の取得費加算の特例は使える?
一定条件を満たす場合、
相続税の一部を取得費に加算
でき、譲渡所得税の軽減が可能です。
主な条件:
-
相続税が課税されている
-
相続開始から3年10か月以内に売却
不動産だけでなく有価証券にも適用されます。
投資信託の相続税評価で見落としやすい実務ポイント
投資信託の相続税評価は基準価額を基に算出するのが原則ですが、実務の現場では評価額の調整要素を正しく理解することが重要です。特に信託財産留保額や解約時の手数料の有無などは、評価額に影響する場合があります。
一般的な投資信託では、解約時に信託財産留保額や換金手数料等が差し引かれる仕組みがあり、これらを考慮して評価額を求める必要があるケースもあります。
日々決算型投資信託の評価に関する注意点
MRFやMMFのように日々収益が計上されるタイプの投資信託では、未収分配金や源泉徴収される税額を調整して評価額を算出します。
これらは金額としては小さいことが多いものの、評価の正確性を求める場合には確認が必要です。
上場投資信託(ETF)の評価方法は株式と同様
ETFなどの上場投資信託は市場で売買されるため、評価方法も株式に近い考え方になります。
評価額は次のうち最も低い価額を採用できます。
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相続発生日の終値
-
相続発生月の終値の平均額
-
前月の終値の平均額
-
前々月の終値の平均額
価格変動の影響を受けやすいため、どの価格を採用するかで評価額が変わることがあります。
基準価額の確認と評価のタイミング
一般の投資信託は市場価格ではなく、運用資産の純資産価値から算出される基準価額によって評価されます。基準価額は通常1日1回算出され、日々変動します。
そのため、評価時点の基準価額を確認する際には、残高証明書や運用会社の公表情報を基に正確な数値を確認することが重要です。
投資信託の評価で相談が多いポイント
実際の相談の中では、次のような疑問を持つ人が多いです。
-
解約時の手数料や留保額は控除できるのか
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分配金や未収収益は評価に含めるのか
-
ETFと一般投資信託の評価方法の違い
-
相続時と換金時の金額差はなぜ生じるのか
これらを理解しておくことで、相続税申告の際の判断ミスを防ぐことができます。
相続税評価の概要を正しく理解することが重要
投資信託の評価は一見シンプルに見えますが、種類や仕組みによって計算方法が異なります。評価額は相続税の税額に直結するため、正確な評価が求められます。
特に、
-
信託財産留保額や手数料の有無
-
分配金の扱い
-
上場投資信託かどうか
-
評価基準日の価格
といったポイントを確認することが重要です。
まとめ|投資信託の相続税評価は「基準価額×口数」が基本
投資信託の相続税評価は、
✔ 死亡日の基準価額
✔ 保有口数
✔ 外貨の場合は為替換算
により算出されます。
ただし実務では、
-
価格変動による差額
-
分配金の扱い
-
解約時の税金
-
取得価額の引継ぎ
などのポイントを理解しておくことが重要です。
投資信託は価格変動資産であるため、相続税評価と実際の受取額が異なる点を踏まえ、必要に応じて税理士など専門家へ相談することで、適切な相続手続きと税務対応が可能になります。
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