相続解決実例一覧

借金をすれば相続税が安くなるは本当か?

2021年08月12日

依頼者・関係者

広島市中区在住の70代のAさん

子供(相続人予定者)は長男と次男

尚、妻は5年前に他界

相続財産の内訳

預金         2,000万円

国債      1,000万円

不動産(自宅) 5,000万円

不動産(農地) 1億円

合計     1,8億円

相談状況・内容

 銀行からのご紹介でAさんは、不動産会社から「借金をすれば相続税が安くなる」という話を聞いたが、その意味がよく分らないので教えて欲しいと来所されました。

 また、相続税を減らしたいので本当に安くなるのなら実行したいという事でした。借金をすると、さまざまな費用もかかります。当記事では借金をすることで、本当に相続税を減らすことができるのか解説します。

ご提案・解決方法

 まず「借金すれば相続税が安くなる」といのは言葉足らずというかウソの話だと説明しました。

 不動産業者とか建築業者がよく使うフレーズですが、別に借金をしただけでは相続税は1円も安くなりません。

 相続税の計算は、資産(プラスの財産)から債務(マイナスの財産)の差額に対して基礎控除額(注1)以上の財産がある場合に課税されます。

 例えば1億円の借金をすると1億円のお金も入ってきます。

 しかし、このままだと資産(お金)1億円と債務(借金)1億円が同額なので、差し引きの財産の金額は全く変わらない為、相続税は1円も減りません!借金をしても、現金がその分増えれば課税対象となる財産は変わりませんので、当然のことです。

 正確には、「借金をして不動産を購入や建築したら相続税が安くなる」です。

 そのカラクリは、相続税を計算する時の不動産の評価額(注2)が、購入金額や建築金額より低くなるからです。

 一般的に、不動産の相続税評価額は、土地は購入金額に対して20%減、建物は50%減になります。

 では、先程の例で、借金1億円をして建物を建築すると評価額が5,000万円となり、評価額と借金との差額5,000万円分財産が減少し、その結果、相続税が安くなるという仕組みを説明しました。不必要な借金で相続税が安くなるのではなく、アパート建築など、不動産を活用した相続対策を行うことで相続税が安くなるのです。

 Aさんには「借金をすれば相続税が安くなる」という仕組みはご理解頂けました。

 以上から「借金をして不動産を購入すれば相続税は安くなる」ので、子供達と相談して実行するか検討して下さいと説明しました。

 と言うのもAさん死亡後には、相続人である子供が借金も相続しなければならないからです。相続人は借金の当事者となりますので、相続した借金の返済を続ける必要があります。銀行はこのあたりの丁寧な案内が欠けていたといえるでしょう。

結果

 後日、Aさんから「借金して不動産の購入」はしない事になったと連絡がありました。

その理由は、子供達が借金をする(引き継ぐ)のが絶対に嫌だった様です。

 因みにAさんが死亡した場合の相続税は、2,740万円ですが、この相続税については、相続した預金や国債を充当し、もし足りなければ、自分達の手持ち資金で何とかするという事になった様です。

 個人的には、遊休地(農地)もあるので、少し勿体ない気もしましたが借金するのが怖いという判断だったのでしょう。

 確かに借金をすれば相続税は安くなりますが不動産の価値が下落したり、賃貸マンションで家賃や入居率が下落すれば借金返せなくなるリスクもあり、そうなれば本末転倒です!アパートやマンション経営では賃貸がうまくいかなければ、借入金を返すことができなくなる可能性があります。有効な相続税対策であっても、過度な対策を行うことで、デメリットがメリットを上回ることもあるので注意が必要です。

不動産を活用した相続対策では、現金が枯渇し、期限までに相続税の納付が困難になるリスクや遺産分割が難航するリスクがあります。生命保険や生前贈与など、他の相続税対策にも必ずデメリットがありますので、リスクについても徹底的に確認して行う必要があります。

 今回の様に、相続税を減らす方法を知っていて実行しないのは人それぞれ色々な考え方があっていいと思います。1億円を超えるような遺産を持つ方が一切相続税対策を行わなければ、かなり負担が多いことも事実です。今回銀行が進めている、負債を持ち、不動産を持つことである程度の相続税対策を行うことは悪いことではないと思います。

 残念なのは相続税を減らす方法を知らないまま進む事だと思います。相続税対策ではさまざまな情報を集めて、自分に合った方法を選択することが重要です。相続税対策は亡くなったあとではできなくなるものも多くありますし、制度を理解したうえでしっかりとした対策を行わないと税務調査で指摘される可能性もあります。税理士などの専門家のサポートを受けて、少しでも相続税を抑えるようにしましょう。

参考法令他

(注1)相続税の基礎控除額(相続税法第15条)

相続税の総額を計算する場合においては、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格の合計額から、3,000万円と600万円に当該被相続人の相続人の数を乗じて算出した金額との合計額を控除する。

(注2)不動産の評価方法(相続税法第22条、財産評価通達)

 不動産の評価方法は、相続税法22条に時価による規定されていますが、時価の算定が実務上は難しいので、財産評価通達に基づき、土地は路線価建物は固定資産税評価額で算定するのが一般的です。

 尚、路線価は公示価格の80%、固定資産税評価額は公示価格の70%と言われています。

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相続事例の執筆担当者

氏名:税理士:藤田 正則(ふじた まさのり)

資格:税理士(税理士登録番号109481号)
   AFP(日本FP協会)

専門分野:相続税、資産税、地主の節税対策

出身:広島県広島市

趣味:海外旅行

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