相続税対策の一環として生前贈与を行う人は多くいます。基礎控除の範囲内であれば贈与税は非課税となりますので、税務署に申告をする必要はありません。
しかし、現金で直接手渡しをしても問題はないのでしょうか。当記事では生前贈与の方法と注意点について税理士がポイントをおさえて解説しますので参考にしてみてください。
贈与契約は口頭でも成立するが注意が必要
不動産等の財産を移転する場合は登記など証拠が残りますが、お金を手渡しする場合は特に証拠が残ることはありません。財産を贈与する際に書面に残さなくても問題がないかと不安に思う人もいるでしょう。民法上は贈与契約は諾成契約といわれるもので、口頭で贈与する側と贈与を受け、財産をもらうという取得の意思表示があれば問題ありません。
また、暦年贈与で毎年贈与を行う場合は、年間110万円の基礎控除の枠がありますので110万円以下の贈与であれば、申告は必要ありません。
1月1日から12月31日までの年間の贈与額が基礎控除の110万円を超える場合は、基礎控除の金額を超えた分に対して所定の税率をかけかわせて贈与税の申告を行います。二人以上から贈与を受けた場合は合計して計算を行います。例えば、祖父から110万円、祖母から50万円で合計160万円の贈与を受けた場合、基礎控除を超える50万円部分が贈与税の対象となります。
基礎控除の範囲内であれば贈与税もかかりませんので特に手続きは必要ありません。
ただし、税務署から税務調査を受けたケースでは何かしら書面で証拠があった方が説明がしやすくなります。相続発生後に過去の贈与されたお金について調査が入る時もありますので、かなり時間が経ってから調査されます。受贈者の記憶もあいまいになっていると思いますので、正しい契約書を作成しておくことで、すぐに税務署に提出し贈与があったことを証明することができますので、大きなメリットとなるでしょう。
贈与契約は双方が意思表示をした時に成立しますので、贈与者が一方的にお金を振り込んで、贈与を受ける側がそれを知らない場合は贈与は成立しません。他にも贈与を行ったにもかかわらず、通帳と印鑑を贈与者が管理し、名義人がその銀行の口座から預貯金が出金ができない状態になっている場合は、名義預金として贈与は行われていないと判断され、相続財産に加算されるリスクがあります。
税務署もさまざまな情報を収集し、課税対象となる財産の状況を把握したうえで対象を絞って事実を確認しています。書類で確認していた時代とは違い、IT化により調査の精度もあがっています。そのため、親子や家族間で現金で一括贈与をしてもばれる可能性が高いです。また悪質な資産隠し行為や受けとった財産について贈与税がかかることを知っておきながら申告漏れがあった場合、脱税となってしまい、高額の重加算税や無申告加算税が追徴で請求される可能性があり、重いペナルティとなります。相続発生後のタイミングで調査に入られたとしてもしっかりと対応できるように準備しておく必要があります。
特例を利用する場合は条件に沿った対応が必要
財産を贈与する際に特例を利用する場合は条件に沿った対応が必要となります。例えば、住宅として利用する土地や建物を購入するための資金を贈与する際には最大1,000万円の特別控除が認められていますが、住宅取得資金贈与の特例を利用する際は、納付する税額が0円でも贈与を行った後に資金を受け取る者が税務署に確定申告をする必要があります。
他にも祖父母などの直系尊属から孫などに教育資金や結婚・子育て資金など、さまざま理由や目的で特例や控除の制度が設けられていますが、納税する金額が0円でも制度を活用するために期限内に手続きが必要となりますので注意しましょう。
たとえば、教育資金贈与の特例を適用する際は信託銀行などに金銭を信託し、金融機関経由で税務署に領収書を提出することになります。他にも夫婦間で住宅を贈与する際に2,000万円まで非課税となるおしどり贈与と言われている制度もありますが、こちらも申告が必要となります。
あくまで特例に定められている条件を満たした上で税金が控除されますので、間違えないようにしましょう。
配分にも注意が必要
贈与をする際にもう一つ気を付けておきたいのが遺産分割の際の配分です。相続人のうち一人に多額の贈与を行った場合、それぞれの意見があり、トラブルになりやすくなるというデメリットがありますので注意が必要です。
贈与の金額に差が出る場合は、相続開始前に遺言書を事前に作成しておくなど対応をしておく方がよいでしょう。遺言は本人の意思で何度でも記載内容を変更することが可能ですので、その時点をの考えをまとめて書いておくと安心です。
子どもも事情が異なる場合が多いので、納得いかず一度トラブルになると解決は難しいでしょう。仲のよい兄弟でも何がきっかけでトラブルになるかわかりません。子どもたちに負担をかけないように、生前に適切な対応をしておくことが大切です。
判断に迷う場合は専門家である税理士に相談を
相続税や贈与税について判断に迷う場合は、税務のプロである税理士に相談することを検討するようにしましょう。節税のために行った行為が相続発生後に否認されたり、指摘を受けたりする可能性もあります。
相続や贈与の課税制度や計算方法は複雑で知識がない人が判断することは簡単ではありません。また、期限が決められており、相続税は被相続人が亡くなってから10ヶ月以内と短い期間に申告を終わらせる必要があります。
自分では問題ないと思っていても、問題があり、加算税を課税されるケースもあります。税理士に相談し、サポートを受ける際は自分が行っている考えや利用する特例をまとめて、説明できるようにしておきましょう。また、自分の財産の一覧の表を作成し、評価額を確認しておくと実際にどれくらいの相続税がかかりそうかシミュレーションすることもできますので、一般的な質問をお尋ねするだけでなく、資産承継に関するより具体的な相談をすることも可能です。
初回の相談はサービスで無料で応じてくれるケースが多いので、まずは気軽に聞いてみることをおすすめします。実際に申告などを依頼する場合の費用などもあわせて確認してみると良いでしょう。
税理士に依頼する際は相続や贈与の申告を普段から業務として行っており実績がある税理士事務所・税理士法人に依頼するようにしましょう。