相続税では現金や預金も当然評価の対象となります。不動産や株式は複雑な計算式が設けられており、現金は単純だと考えている人も多いでしょう。しかし、現金や預金の評価を誤ると思わぬ計算間違いを起こしてしまう可能性があります。当記事では、現金・預金の評価方法について解説します。
相続税における「現金」の基本的な評価方法
相続税の計算において、現金はもっともシンプルである一方、誤解されやすい財産のひとつです。まずは、現金がどのように評価されるのか、基本から整理しておきましょう。
現金は原則「額面通り」で評価される
相続税において、現金は額面そのものが評価額になります。
たとえば、手元に1,000万円の現金があれば、相続税評価額もそのまま1,000万円です。
不動産や株式のように「評価を下げる仕組み」はなく、非常に分かりやすい反面、節税の余地がほとんどない財産ともいえます。
相続開始日時点の残高が評価額になる
相続税では、被相続人が亡くなった日(相続開始日)時点の財産状況で評価が行われます。
その後に引き出されたかどうか、使われたかどうかは関係ありません。「亡くなった時点でいくらあったか」が評価の基準になります。
預金については経過利息について注意が必要です。普通預金は軽微はため、経過利息は計算しないことが多いですが、定期預金の場合は経過利息を含めて計算を行わないと税務署から指摘される可能性があります。
日本円・外貨預金・タンス預金の違い
現金と一口にいっても、種類によって扱いが異なります。
特にタンス預金は、「申告しなければ分からない」と考えられがちですが、
過去の預金履歴(解約や多額の出金履歴)を調査し、生活状況との矛盾点から税務署に把握されるケースも多く、注意が必要です。意図的な隠蔽と見られた場合は、重加算税の対象となり、最悪の場合、刑事罰の対象となります。
相続税で現金が「不利」と言われる理由
相続対策の場面で「現金は不利」と言われるのには、明確な理由があります。
評価額を下げる余地がほとんどない
現金は額面評価のため、
といった調整要素が一切ありません。
その結果、財産額がそのまま課税対象になります。
他の財産と違い特例・控除が使えない
不動産には、
などの制度がありますが、現金にはこうした特例が存在しません。
同じ1億円でも、
という差が生じることも珍しくありません。
現金が多いと相続税額がそのまま増える仕組み
相続税は累進課税のため、課税価格が大きくなるほど税率も上がります。
現金が多い場合
→ 課税価格がそのまま膨らむ
→ 高い税率が適用されやすい
という構造になっており、「現金が多い=相続税が高くなりやすい」という結果につながります。
不動産は相続税でどう評価される?
次に、現金とよく比較される不動産の評価方法を見ていきましょう。
不動産は「時価」ではなく評価額で計算される
相続税における不動産評価は、実際に売れる価格(時価)ではありません。
税法上定められた「評価額」を使って計算します。
この点が、現金との大きな違いです。
土地は路線価、建物は固定資産税評価額が基準
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土地
→ 国税庁が定める「路線価」を基準に評価
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建物
→ 市町村が定める固定資産税評価額を使用
一般的に、これらの評価額は市場価格より低く設定されています。
現金と比べて評価額が下がりやすい理由
不動産は、
によって評価が調整されるため、結果として評価額が下がりやすいのが特徴です。
そのため、同じ金額でも
「現金より不動産の方が相続税評価額は低くなる」
というケースが多く見られます。
株式(上場株・非上場株)の相続税評価
株式もまた、現金とは異なる評価方法が用いられます。
上場株式の評価方法(終値・平均値)
上場株式は、以下のいずれか最も低い価格で評価できます。
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相続開始日の終値
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相続開始月の平均終値
-
相続開始前月の平均終値
-
相続開始前々月の平均終値
価格変動がある分、一時的に急騰していても前後3ヶ月の平均値を使うことで、税負担を抑えることが可能です。
非上場株式は評価方法が複雑になりやすい
非上場株式は、
などを基に評価され、専門的な計算が必要になります。
場合によっては大幅な評価引下げが可能なケースもあります。
株式と現金の評価の違いと注意点
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現金:額面固定、調整不可
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株式:評価方法の選択余地あり
ただし、株式は価格変動リスクもあるため、
税金だけで判断せず、資産全体のバランスを見ることが重要です。
現金・不動産・株式の評価額を比較するとどう違う?
相続税では、財産の種類によって評価方法が大きく異なります。
同じ金額の財産でも、現金・不動産・株式では相続税評価額に大きな差が生じることがあります。
同じ1億円でも相続税評価額はどれくらい差が出る?
たとえば、被相続人が「時価ベースで1億円相当の財産」を保有していた場合でも、内容によって次のような違いが出ます。
この差が、そのまま課税対象額の差となり、最終的な相続税額に大きく影響します。
相続税評価額の比較シミュレーション
例として、相続財産が1億円で、法定相続人が2人いるケースを考えてみましょう。
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現金1億円の場合
→ 評価額:1億円
→ 課税価格がそのまま1億円になる
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不動産1億円相当の場合
→ 評価額:約7,000万円
→ 小規模宅地等の特例が使えれば、さらに評価減の可能性あり
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株式1億円相当の場合
→ 評価額:相場や評価方法により変動
→ 最低評価を選べることで、評価額が下がることもある
このように、現金は最も評価額が高くなりやすい財産だということが分かります。
なぜ相続税対策では現金が不利なのか
理由はシンプルです。
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額面評価で下げようがない
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特例や評価減が使えない
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課税価格がそのまま積み上がる
結果として、「資産はたくさんあるが、相続税も最大限かかる」という状態になりやすいのです。
相続税対策として現金はどう考えるべきか
では、相続税対策として現金は「悪者」なのでしょうか。
実際には、現金が必要な場面・有効な場面も確実に存在します。
現金をそのまま相続した方がよいケース
次のような場合は、無理に現金を動かさない方がよいこともあります。
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相続税の納税資金として十分な現金が必要な場合
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相続人が多く、分割トラブルを避けたい場合
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高齢で新たな資産運用リスクを取りたくない場合
現金は「分けやすい」「換金しやすい」という実務上の強みがあります。
現金を他の資産に変える際の注意点
一方で、現金を不動産や株式に変える場合には注意が必要です。
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節税目的だけで購入すると、かえって負担が増える
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流動性が下がり、相続後に困ることがある
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管理・維持コストが発生する
「相続税が下がるか」だけでなく、
相続後の使いやすさ・管理のしやすさまで含めて考える必要があります。
安易な対策がリスクになるケース
よくある失敗例として、
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節税目的で不動産を購入したが空室が続いた
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株式に換えたが相場下落で評価額が想定外に変動
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生前贈与のつもりが贈与税の対象になった
などがあります。
相続税対策は、「やらないリスク」だけでなく
「やり過ぎるリスク」もあることを忘れてはいけません。
現金評価でよくある誤解と注意点
現金については、誤った理解からトラブルになるケースも少なくありません。
「現金なら申告が簡単」という誤解
確かに計算自体は簡単ですが、
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金額が大きいほど税務署の関心も高い
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出所や管理状況を確認されやすい
という特徴があります。
「簡単=安全」ではありません。
名義預金・タンス預金とみなされるリスク
次のようなケースは、名義預金と判断される可能性があります。
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家族名義だが実質的に被相続人が管理していた
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収入や生活状況から不自然な預金残高がある
名義預金については名義が配偶者や子ども、孫のものであっても、その原資が被相続人から出されており、通帳や印鑑などを管理している場合、実質的な所有者は被相続人となり、相続税の課税対象に含まれる可能性があります。
タンス預金についても、預金引き出し履歴や生活費との整合性から存在を推認されるケースがあります。
税務署が現金をチェックするポイント
税務署は、以下の点を総合的に見ています。
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過去の預金の動き
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収入・支出のバランス
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相続人の説明内容の一貫性
「申告していない=バレない」という発想は、
非常にリスクが高いと言えるでしょう。
基礎控除と現金の関係:課税される“遺産”とは何か
相続税は、すべての遺産合計(現金・預貯金・不動産・株式など)から基礎控除額を差し引いた後に課税されます。
基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算され、この額を超えない場合、そもそも相続税はかかりません。
たとえば預貯金や現金だけを見ても、遺産の総額が基礎控除以下なら相続税の申告や納税は不要です。
しかし、現金が多額で基礎控除を超えれば、現金も他の財産と同じく課税対象になり、申告手続きが必要です。
生前贈与と相続税の関係:「贈与」と相続のつながり
現金を生前に子や配偶者へ渡す「贈与」は、相続税対策として検討されることがありますが、贈与税の対象になるケースがあります。
単に現金を贈与すれば相続税が減ると考えるのではなく、贈与税とのバランスも理解することが重要です。
「預貯金」や「名義預金」をめぐる注意点と税務調査
現金や預貯金は分かりやすい財産ですが、税務署による税務調査で注目されることが多い項目です。
特に遺産総額が大きい場合や、申告書の書き方に不自然さがあると、税務署が調査する割合は一定程度高くなります。
「名義預金」とみなされると、被相続人の実質的な財産として評価され、申告漏れと判断されるリスクがあります。
こうしたリスクは現金だけでなく、その出所や管理状況が申告書や税務署とのやり取りで明確に説明できない場合に起こります。
配偶者・相続人ごとの非課税枠と“割合”の考え方
相続税には、配偶者に対する配偶者控除などの非課税制度があり、配偶者が取得する財産の一定割合まで相続税がかからない仕組みもあります。
非課税枠は
のどちらか大きい方が適用されるため、実務では配偶者がどれだけの財産割合を相続するかによって税額が大きく変わります。
“書類”と手続き:相続税申告の現金・預貯金対応
現金・預貯金がある場合、相続税の申告書類では
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預貯金の明細(残高証明書)
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引き出し履歴や通帳のコピー
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生前贈与の状況を示す書類
などを添付することが求められます。
これらは税務調査時にも確認される重要な書類です。
申告書の書き方自体は単純でも、申告方法や時期・書類の準備対応を間違えると追徴課税や加算税の対象になることがあるため、専門家の活用も検討したいところです。
現金・不動産・株式で迷ったら専門家に相談を
相続税対策は、財産の種類だけでなく、
家族構成・年齢・資産規模によって正解が変わります。
相続発生前に相談すべき理由
生前であれば、
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選択肢が多い
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時間をかけて検討できる
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リスク分散が可能
という大きなメリットがあります。
相続発生後でも間に合う対策はある?
相続後であっても、
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申告期限までの特例検討
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遺産分割の工夫
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評価方法の見直し
など、できることはあります。
「もう遅い」と諦める必要はありません。
税額だけでなく「分けやすさ」も重要
相続で本当に大切なのは、
これらのバランスです。
現金・不動産・株式のどれが良いかは、
家庭ごとに答えが違うのが相続の難しさでもあります。
現金の評価と税務対応:まとめ
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遺産の現金や預貯金は、基礎控除を超えると課税対象になる
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生前の贈与は贈与税との関係を押さえておくこと
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税務調査では現金・預貯金の動きや書類がチェックされる
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配偶者や相続人ごとの非課税制度・割合も理解しておくこと
これらを押さえることで、現金の評価や課税手続きに対して正しい対応が取りやすくなります。
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