財産を相続し、預貯金や株式、不動産などの財産から、借金などマイナスの財産を差し引いた総額が基礎控除を超える場合は相続税の申告が必要です。
被相続人が死亡した翌日から10ヶ月以内に法定相続人が相続税の申告を完了させ、税金を支払う義務があります。相続が発生すると金融機関の手続きや不動産の登記などもあり、非常に短い期間にさまざまなことを行う必要があります。
相続を受ける財産の多くが現金や預貯金や上場株式など比較的現金化しやすい資産であった場合には、相続した財産から払えるでしょう。しかし、不動産など換金することに時間がかかる財産が中心であった場合、税の額の割に大きな金額の現金が手に入らず、支払えないことがあります。
当記事では納める税額が大きく、相続税が払えない場合の対処方法について解説します。
納税資金不足に陥った場合の対策
相続が開始した後で納税資金不足となった場合どのような対応方法があるのでしょうか。相続人がとることができる選択肢や対処法をご紹介します。
相続した資産を売却する
現金以外の割合が多い場合でも不動産や金などの動産類など、資産性の高いものであれば、売却して換金することが可能です。東京などアクセスがよく価格が高いエリアに自宅がある場合は、それだけで納税資金不足となることも多いです。税金が払えない事態となった場合は、自宅を売却して換価した分で払うということも一つの方法です。
ただし、相続財産の分割を経てから相続により取得した者が不動産の仲介業者に土地・建物の査定を依頼し、買主を探した場合、相応の期間がかかります。そのため、本来ならもっと高く売れるものが急いで売りに出してるため、低い値段でしか売れず、手元に現金があまり残らないケースもあります。
また、不動産などの資産を売却し、購入時点より値上がりし、利益が出た場合は譲渡所得が課せられ、思ったよりも手元に現金が残らないケースも多くあります。売却価額だけでなく、税率も確認して、いくら手元に残るかも確認しておく必要があります。短い間で判断する必要があるため、不動産を2つ3つ保有している場合は、どれを売却するか優先順位を決めておくとよいでしょう。相続した空き家であれば、3年以内に売却すると、3,000万円の特別控除が受けられるので、特例の利用可否を確認することも大切です。
相続の手続きは同時進行で進めることも可能ですが、相続する権利を持つ人が複数いるケースで分割方法や売買の価格で折り合いがつかない場合、納税の期限に間に合わない可能性も高いでしょう。
資産を担保にして金融機関から借り入れをする
不動産は資産としての価値があるものであれば、不動産を担保にし、銀行など金融機関から融資を受けることができます。ただし、金融機関の審査があり絶対に借りれるわけではありませんので、早めに審査を行って、納税期限までに資金を用意することが必要となります。
また、金融機関に金利を支払う必要があり、変動金利で契約をした場合は今後、一定の金利上昇によりコストが高くなる可能性があります。もし督促をされても借金が返済できない場合は金融機関から担保に提供した物件を差し押さえられ、処分して得た金銭で返済に充てる可能性があります。
延納する
相続税の支払いは原則、現金で一括で支払う必要がありますが、不動産など換金性の低い財産が多く、支払うことが難しい場合は延滞せざるを得ません。
そのような場合は、税務署に書類を提出することで正式な手続きとして延納により分割払いが認められる場合があります。
10万円以上の相続税がかかることが条件となりますが、申請すれば必ず認められるわけではないことと、市場金利に応じた利子税を支払うことになりますので、長期間延納した場合は相当な負担になることには注意が必要です。
また、申請から許可が下りるまで最長で6ヶ月かかりますので、期限を過ぎてしまうケースも多いです。延納を検討する場合は早めに手続きを行いましょう。
また、延納する場合は、利子税がかかります。市場の金利によって利率は決まっています。
物納する
物納とは不動産や有価証券などの遺産を現物のまま納税する方法です。不動産が多く、換金も難しい場合に取ることができる選択肢ですが、物納も必ず認められるわけではなく、認められない場合には他の方法を選択する必要がありますので、早めに準備が必要です。
物納が認められている財産は不動産、国債証券、地方債証券、社債、株、船舶などがあげられます。不動産でなどでも、管理処分に不適格な財産は物納することができません。
納税資金不足となる可能性がある場合の生前の対策
ここまで、相続発生後の対応方法について解説しましたが、出来れば相続が発生する前に事前の対策を打っておく方がよいでしょう。相続発生前の対策について具体的に解説します。
分割方法を決めておく
相続が発生すると預金の口座が凍結し、分け方がまとまらないと分割の手続きができないため、相続税を払うことができません。
また、事前にシミュレーションを行い納税資金不足となりそうな場合には納税期限までに資産を売却するか相続人自身が金銭を用意する必要があります。株や不動産など相場により価格が変動するものは、実際の納税額はシミュレーションとは異なりますが、現時点の時価であればどれくらいの税金がかかるか目安を確認しておくことは重要です。
納税が遅れないように先に誰が何を相続し、どの程度相続税を負担することになるのか、あらかじめ決めておき、法定相続割合とは異なる配分にする場合や第三者に遺贈する場合は相続人にも説明しておいた方がよいでしょう。
相続人同士が話し合いを行い、分け方を決めると、全員で合意ができるまで時間がかかります。また、1人でも納得いかない人がいると、分けることができません。一切連絡を取っていない人など、親族関係で不安がある場合は、特に遺言書の作成をおすすめします。
遺言を作成し、各人にどのように分けるか決まっていることで、トラブルを回避し、遺産分割にかかる時間を大幅に短縮できることは大きなメリットとなります。また、遺言書で財産の分け方を決めておくことで、配分が問題となり相続人同士の関係が悪化し、弁護士を交えて争いになることも避けることができるでしょう。
路線価などを確認し、財産の価格を知っておくことで売却するかどうかの判断もすぐにすることができますし、現状を把握することで、自身の財産が基礎控除(3,000万円+法定相続人×600万円)以下であれば心配する必要はありません。
生前に贈与をする
賃貸に出しているマンションなどを保有しており、定期的に収入がでているケース等の場合、収益を相続させる子どもなどに贈与をすることで相続税の課税対象となる財産を減らすことができます。相続税は所得税と同様に累進課税ですので、財産の総額を減らすことで、税率も下げることができます。
また、現金をしっかりと貯めておけば納税資金として活用することもできます。
また、贈与税の基礎控除は110万円のため、110万円を超える贈与を行うと贈与税の課税の対象となりますが、自宅を購入する場合は最大1,000万円、や孫等の教育資金であれば最大1,500万円までの範囲で一括で贈与ができる特例もありますので、利用を検討してみてもよいでしょう。
また、配分を決める際にあらかじめ贈与をしておくことで、贈与を受けた人は相続が発生した時に相続放棄をしてもらうというのも一つの手段です。相続発生時に財産を受け取る人を一人にすることで、お金の把握もしやすいですし、状況に合わせてスムーズに手続きができるでしょう。ただし、贈与をすることで不公平が生じることもありますので、法定相続分通りに分けるのか家族の中で差をつけるのかもよく検討する必要があります。
生命保険を契約しておく
生命保険は契約者が亡くなった時に遺産分割協議を行わなくても指定を受けた人が直接受け取ることができます。遺産分割協議が困難なケースでも生命保険はすぐに現金化し、受取人の預金として使うことができますので、納税資金の一部に充当することも可能です。
生命保険を契約することで、解約返戻金が元本を割れるものもありますので、契約者の財産としては使いづらくなるというデメリットはありますが、相続人が受け取れるという点ではメリットのある対策といえるでしょう。
また、生命保険を契約しておくことで、非課税枠が使えるため節税にもつながります。死亡保険金の内、法定相続人×500万円までは非課税となります。生命保険の契約をしていない場合は、非課税枠の限度までは、加入を検討してもよいでしょう。
相続税のお悩みは税理士に相談を
相続は親が亡くなった時くらいしか経験しないので、経験値がある人は少ないでしょう。しかし、放置をしてしまうと大変なことになってしまいます。
相続税の制度は国税庁のサイトに概要や詳細の計算方法が記載されています。しかし、相続税は頻繁に改正もありますし、非常に複雑で知識が無く、慣れていない人が実際に自身で期限内に正確に計算を行い、支払いまで完了することは簡単ではありません。しかし、親族のうち誰かが代表して、財産をまとめて、計算を行い、税務署長あての申告書の提出手続きを進める必要があります。相続発生後は短い間で名義変更など、他の手続きも同時進行で進める必要があります。
特例も配偶者控除や小規模宅地の特例のほか、様々な種類の特例があり、要件を的確に理解し、判断することは慣れてない人にとってかなり難しいでしょう。相続税の申告で評価や特例の適用条件等を誤った場合、税務署から訪問で徹底的に調査を受ける可能性があります。
加算税を請求される可能性がありますし、最終的に申告を怠った場合は無申告加算税というペナルティがあり、高額の税金が課されることがあります。
所有する各財産の評価額や自宅の評価をする際に小規模宅地の特例など特例の利用可否など、判断できないことがある場合は、税務の専門家である税理士のサポートを受けるようにしましょう。相続税に精通しており、実績のある税理士法人、税理士事務所に依頼することで、税金の支払い額の算出や、添付書類の作成も一任することができます。
税理士に相談をする際は相続税や関連のある贈与税に強い税理士に依頼することをおすすめします。相続発生後は相続の他にもさまざまな手続きが必要なため、参考となるアドバイスをくれるでしょう。
税理士に相談に行く際は被相続人が保有していた不動産や金融資産など課税の対象となる資産の内容や全体の額がわかるものの一覧を持っていくとスムーズに相談できるでしょう。特に不動産の数が多い場合は、評価に時間がかかりますので、早めに依頼するほうがよいでしょう。
税理士に申告を依頼することで、費用はかかりますが、配偶者控除や小規模宅地の特例など、特例の申請を漏れなく行うことで節税につながることもあります。自分で申告をすることが難しい場合は税理士に依頼することで安心して進めることができます。
初回の相談はサービスで無料で応じている税理士も多いので、まずは電話やメールなどで気軽に問い合わせてみるとよいでしょう。