推定相続人の中に認知症の人がいる場合、さまざまな不安がよぎるでしょう。例えば、相続人になれるか、手続きをどのように進めればよいかなどの疑問が考えられます。結論から述べると、認知症の人も相続人になれますが遺産分割協議の進め方には注意が必要です。判断能力がないからなどの理由で除外するとトラブルに発展します。
この記事では、認知症で判断能力が不十分な人がいる場合、相続の手続きをどのように進めればよいかを解説しています。以下の情報を参考にすれば、どの制度を利用して手続きを進めればよいかがわかります。推定相続人の中に認知症の人がいる方は確認しておきましょう。
認知症の人は年々増加する予想
認知症は、病気や障害で脳の働きが悪くなった結果、おおよそ6カ月以上にわたり生活に支障が現れている状態です。具体的には、記憶障害・実行機能障害・見当識障害、理解力・判断力の障害と行動・心理症状によりさまざまな支障が現れます。
厚生労働省によると、2020年における認知症の人の数(65歳以上)は約600万人です。2025年には、約675~730万人程度まで増加すると予想されています[1]。
つまり、高齢者の約2割が認知症になると予想されているのです。自分の家族や親戚で認知症の人がいるというケースも当然多くなっていきますので、私たちも知識を身に着けていく必要があります。
認知症の人は相続人になるのか
症状の程度に関わらず、認知症の人も相続人になります。高齢化が進んでいることで、被相続人の配偶者や父親や母親が相続人となるケースでは認知症を患っている可能性も高くなっています。
そのため、相続人の中に認知症の人がいる場合、その人も、もちろん法定相続分を相続する権利がありますので、遺産分割協議から外すことはできません。前述の通り遺言書がない場合、相続人全員で協議を行う必要が生じるので、相続人の一部が参加していないと、遺産分割協議が無効になってしまうからです。意思能力がないから相続放棄というわけにはいきませんので相続手続きが進みませんので、認知症の方がいる場合は注意が必要です。
認知症の症状は人により大きく異なります。財産の一覧や自分がもらう額について、説明を理解できる場合もあるでしょう。
認知症と診断されていても十分な意思能力があり対応できる場合は、その人が参加して遺産分割協議を行えます。
意思能力が低下している場合は、そのままの状態だと遺産分割協議を進められません。意思能力の有無は医師が判断します。認知症の人が相続人の場合は、医師に相談するとよいでしょう。
ちなみに、他の相続人が認知症の人になりすまして遺産分割協議書を作成すると私文書偽造に問われます。認知症の人に意思能力がなくても、遺産分割協議書を勝手にその人の名前で署名して作成したり、相続で取得した財産を処分したりすることはできません。
スムーズに進めるため「成年後見人」が必要
認知症で意思能力が低下している場合は、成年後見制度を利用して後見人等を選任します。民法で定められた法定の後見人等が参加することで遺産分割協議が成立します。
成年後見制度は認知症などで判断能力が不十分な人を法的に保護・支援する制度です。後見人等は、本人の代わりに財産の管理、法律行為などを行います。
成年後見制度は、判断能力が不十分になった場合に備えて任意後見人を選んでおく任意後見制度と判断能力が不十分な人を保護・支援する法定後見制度にわかれます。法定後見制度では、家庭裁判所が本人の判断能力に応じて次の後見人等を選任します。法定後見制度は以下の3分類に分かれる仕組みとなっています。対象となる人の状況によって、決められますが、後見人は補助人・保佐人とひかくして 症状が重い場合の対応となります。
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補助人 |
保佐人 |
後見人 |
判断能力 |
不十分 |
著しく不十分 |
欠けているのが通常 |
権限 |
一部の契約などの同意・取消・代理 |
財産上の重要な契約などの同意・取消・代理 |
日常生活に関する行為を除くすべての契約などの代理・取消 |
申し立ては、本人の住民票に記載されている住所地を管轄する家庭裁判所へ行います。申し立てを行えるのは、本人・配偶者・4親等内の親族などです。後見人等は家族でもなれますが、弁護士などの専門家が選ばれるケースが多いでしょう。
尚、弁護士や司法書士など専門家が選任された場合には財産状況に応じて毎月数万円の報酬がかかります。遺産相続の際は、銀行や証券会社で預けている現金、預貯金や株式、投資信託の名義変更や土地・建物の登記、生命保険の請求など様々な手続きを行う必要があります。年間数十万円の費用がかかるなどデメリットもありますが、本人が対応することが難しい場合でも成年後見人が法律上、認められた代理人として、本人に代わってまとめて解約などの対応できます。また、不必要に高額な商品やサービスの契約をしてしまったとしても、法定代理人が取り消すことができ、トラブルを防ぐことにもなり、安心です。
上記のとおり成年後見の手続きは家庭裁判所の審判を待っておく時間もありますので、非常に時間がかかります。受付中は他の手続きを進めることができないことも多くあります。
相続が発生し、金融機関に電話などで連絡をいれると、口座は凍結してしまいますので、生活費に困るケースも多いでしょう。一般的に子や兄弟や甥・姪など他の相続人が面倒をみたり、葬儀費用や生活費を負担したりと、大きな負担になることも多いので、放置せずに早めに成年後見の手続きに着手することをおすすめします。
相続人の中に認知症の方がいる場合の準備
相続人の中に認知症の方がいる場合や、年齢が近く、将来認知症になる可能性がある方がいる場合は遺言書を作成することをおすすめします。認知症の方も法定相続人として権利がありますので、遺産分割協議を行って合意してもらう必要があります。
しかし、認知症の方が相続権の概要について理解して意思表示をすることが難しい場合もあるため、遺言書で、誰に何を遺すかを定めておけば、死後に話し合いをする必要がなくなります。また、遺言を手続きする執行者を指定しておくことで、手続きをスムーズに進めることができます。執行者は相続人のうち誰かを代表して指定することも可能ですし、弁護士や司法書士、税理士などの第三者に業務として依頼することも可能です。
また、事前に遺言書を用意し、配分を決めておくことで、トラブルを回避することができ、基礎控除を超える場合の相続税の申告もスムーズに行うことができます。遺言書を作成する際は相続財産の一覧を添付しておくことで、調査の時間も省くことができますので、期限内に申告手続きを進めることができるでしょう。
相続人のうち、主に事務手続きをする方が、会社に所属している場合などは平日なかなか作業するのが難しいという方も多いでしょう。死後に故人の財産調査や遺産整理をすると大変な作業になりますので、事前にできることはしておくことで大きく負担を減らすことができます。
遺言書は自筆で書いて自宅に保管することもできますが、確実に効力が発生する公正証書遺言を作成することをおすすめします。書き方が分からない場合は、司法書士などに相談するとよいでしょう。
認知症でも相続人になる
認知症の人の相続について解説しました。認知症で判断能力が低下していても相続人になれます。ただし、症状によっては後見人等を専任する必要があります。具体的な手続きについて知りたい場合は、税理士などの専門家に相談するとよいでしょう。
相続税について心配な場合や何から始めていいかわからないという方は税理士に相談するようにしましょう。初回の相談はサービスで無料で応じてくれるケースもあります。申告を依頼する場合の費用は、遺産の額や財産の内容にもよりますので、亡くなった人の財産の一覧を持っていくとよいでしょう。
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