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認知症の人がいると起こりやすい相続のトラブルと解決策

2022年01月12日

被相続人や相続人に認知症の方がいる場合に相続が発生したらどうなるのか悩まれている方も多いと思います。当然ですが、認知症の人も被相続人、相続人になりえます。意思能力や判断能力が低下していると、特別な手続きなどを必要とするケースがあるため注意が必要です。対処を誤ると大きなトラブルに発展する恐れがあります。例えば、認知症の人が相続人にいる場合、遺産の分割協議が無効になるなどが考えられます。

この記事では、被相続人や相続人に認知症の人がいると起こりやすいトラブルを紹介しています。さらに、基本的な解決策も示しています。
以下の事例を参考にすれば、目の前にあるトラブルにどう対処すればよいかがわかるはずです。認知症が絡んだトラブル事例を解説しますので、相続でお困りの方は確認しておきましょう。

認知症が絡んだ相続時のトラブル事例3選

認知症が原因で、相続時にトラブルになることがあります。よくあるトラブルの例と解決のポイントを紹介します。

被相続人が認知症の場合

被相続人が認知症の場合、遺言書に関するトラブルが想定されます。遺言書が無効と判断されることがあるからです。

遺言書の有効性はさまざまな観点から検討されます。中でも重要とされるのが、遺言書を作成したときにおける本人(被相続人)の遺言能力です。遺言能力は、遺言の意味や影響を理解する能力といえるでしょう。
具体的な事例を見ていきます。

【事例】
被相続人:父(認知症)
相続人:長男・次男
財産配分を決定する方法として、遺言が利用されることが多いです。しかし、作成時の意思能力が問われ、遺言書で指定された通りに手続きを行うことができない状況となることもあります。

長男は、認知症を患う父に不動産や預貯金など全財産を長男に譲る旨の遺言書を書かせた。次男は、遺留分も侵害されており親が書いた遺言の有効性を疑っているケースがありました。法律上有効な遺言で実際に代筆ではなく、民法で定められた書き方で親が自分で署名をしていたとしても、認知症で意思能力がない状態だとすれば、遺言書は無効となります。亡くなってから遺言書が無効となると法定相続分をベースに話し合いで決めることとなり、遺言書とは全く異なる配分方法となります。

自筆証書遺言で争点となるケースが多いですが、公正証書遺言や生命保険の加入についても争点となる可能性があります。

解決策としては、相続時にその有効性を確認することになりますが、その有効性について長男と意見がわかれる場合は、兄弟間で調停・訴訟で解決することになります。

調停・訴訟になると、遺言の内容などを踏まえて遺言能力が判断されることになります。遺言能力には、遺言の難解性や重要性なども関係するからです。また、父が遺言書を作成した時の意思能力の有無も大きなポイントとなります。尚、現在のところ、遺言能力を判断する明確な基準はありませんが、医学的な視点など総合的に判断されます。

しかし、被相続人の死後に作成当時の意思能力を判断することになるので、遺言が書かれたのが、亡くなる10年以上前であれば10年以上前の時点で法律行為をする意思能力があったかどうかが争点となります。

そのため、医師の診断書がない場合は意思能力の有無や認知症の程度についてわからないことが多く、時間がかかるケースも多いです。

法定相続人の中に認知症の人がいる場合

法定相続人の中に認知症の人がいる場合、遺産分割協議に関するトラブルが想定されます。意思能力が欠如していると、遺産分割協議が無効になってしまうからです。

意思能力は、法律行為を行ったときにどのような影響があるか理解する能力といえます。合意をしていたとしても遺産分割協議が無効とされる理由は、意思能力が欠如していると認知症の法定相続人が不利益を被ることがあるからです。しかし、手続きが進まないからといっても、名義人が死亡すると口座は凍結されますので、介護や施設への支払いができず放置することはできません。

具体的な例を見ていきましょう。

【事例】
被相続人:父
相続人:母(認知症)・長男・長女
父親が亡くなり、相続が発生した。相続財産の遺産分割協議を行いたいが、母親が認知症で困っている。
解決策は、母の意思能力を評価したうえで必要に応じて成年後見人を専任することや特別代理人を選任することが考えられる。成年後見制度については、地域の権利擁護センターなどで相談できる。

家庭裁判所で法定後見人が選定された場合、母の代わりにこの法定後見人と分割協議を行うことになります。一般的には、法定後見人のついた相続人の相続分(1/2)を相続するように手続きが進められます。

ちなみに、一人でも認知症の人を遺産分割協議から除外した場合も遺産分割協議は無効になります。遺産相続における遺産分割協議は相続人全員で行わなければならないからです。そのため、有効な遺産分割協議書にするためには成年後見人に代理で遺産分割協議に参加してもらう必要があります。

成年後見人は司法書士などに依頼することもできますが、成年後見の手続きや選任に時間がかかる点は注意が必要です。成年後見をの対応をした後に遺産分割協議を進めることになります。それぞれの事情もあり、手続きが進まないケースもありますので、相続発生後は葬儀などで忙しく時間があっという間に過ぎてしまいます。相続税は相続発生後10ヶ月以内に完了する義務がありますので、着手が遅いと相続税の申告等期限の対応に間に合わない可能性があります。

また、成年後見の仕組み活用すると裁判所に財産をまとめて財産目録を作成し、年間収支予定表などを提出する必要が法律上定められており、継続的に面倒な作業が発生します。現在はお元気でも将来は手続きが難しくなるかもしれないと不安な方は事前に後見人を選任しておく任意後見という制度もありますので、あわせて検討してみてもよいでしょう。

認知症の人の成年後見人に関して

成年後見人は、成年後見制度に基づき認知症などで判断能力が低下した人を保護・支援します。頼りになる存在ですが、相続においてはトラブルに繋がるケースもあります。
具体的な事例は次のとおりです。

【事例】
贈与者:母(認知症)
受贈者:次男
成年後見人:長男
次男は母から金銭を贈与された。母が認知症になり長男が成年後見人に専任された。次男が、成年後見人である長男から贈与された金銭を返すようにいわれて困っている。
この場合、金銭を贈与されたときにおける母の意思能力が問題になる。
意思能力があれば金銭を戻す必要はありませんが、意思能力がなければ贈与を取り消される恐れがあると考えられます。

成年後見人を司法書士などの第三者に業務として依頼することでトラブルを回避できる可能性もありますが、子供などの親族以外に依頼する場合は費用がかかりますので、トラブルを防ぐためには金銭的な負担は大きくなります。どちらを選択するか、必ず家族とも相談していただいて決めていく必要があるでしょう。

認知症の人がいる場合は相続のトラブルに注意

被相続人や相続人などに認知症の人がいるときに起こりやすいトラブルを紹介しました。ケースにより対処法は異なります。遺産分割協議も問題となりますが、銀行や証券会社など金融機関での預金や投資信託等の名義変更や解約とその後の管理、土地・建物の登記や取得した後の運用・売却・処分も認知症の方には難しいでしょう。共有になっている場合も共有者が認知症になってしまうと売却することが難しくなります。

不動産の登記も義務化されましたので、放置することはできません。自身の希望を伝えることはできるかもしれませんが、話し合いや法律行為をすることは簡単ではありません。

かといって、相続人の利益に反することになるので、原則相続放棄をさせることはできないので、時間がかかっても成年後見制度を活用して進めざるを得ないケースもあります。被相続人の口座に生活費が入っている場合は早く手続きを進めないと現金が枯渇してしまう点も要注意です。

成年後見の契約を弁護士や司法書士などの専門家に依頼する場合は費用もかかりますので、金銭面での負担も大きいです。

家族の中に認知症の方がいてお悩みの方は、信頼できる税理士などの専門家に相談するとよいでしょう。配偶者が認知症になっている場合は、事前に遺言を作成するなど準備をしておくことで、負担を軽減することができます。遺言書には手続きを担当する執行者を定めることができますので、執行者を定めておけば執行者が相続人に代わって遺言の内容を実現するために遺産整理の手続きを行えます。

また、資産の多い方は小規模宅地の特例など、各種特例等を認められる範囲で適用することで、税金の負担を軽減できる可能性もあります。

実績があり相続のプロである税理士に依頼することで、節税や相続発生後の書類の用意、についても依頼することができますので安心です。

広島相続税相談テラスでは、相続税で困っている・遺産分割に悩んでいる・生前贈与を検討しているあなたをサポートします。
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筆者情報

氏名:山根 謙二 (やまね けんじ)

資格:税理士(税理士登録番号92527号)
   行政書士(行政書士登録番号18342346号)
   相続手続カウンセラ-

専門分野:相続税、事業承継

出身:広島県廿日市市

趣味:ゴルフ、旅行(海の綺麗な所)

お客様に一言:相続の事なら何でもご相談下さい