遺された家族の税負担を少しでも減らすことができるように、遺産相続の際の相続税対策について真剣に考えている人は多いのではないでしょうか。当記事では必要以上に相続税がかからないようにするためのおすすめの方法や注意点についてポイントを抑えて解説します。
まずは現状把握が大切
相続税の対策をする前にまずは現状どれくらいの相続税がかかるのかを、一覧の表にして、早めにしっかりとシミュレーションをし、把握をしてから、どれくらい実際に納める相続税を減少させることができるか、適切な方針を確定することが大切です。相続税の額を計算する際は、自分の名義となっている不動産、自身の銀行口座で預けている預貯金、株式、投資信託、金など課税対象となるあらゆる種類の相続財産の評価額の総額を計算します。財産の中で墓地や仏壇・仏具・墓石等は課税の対象外ですので相続税はかかりません。
また、現在住んでいる自宅で利用できる小規模宅地の特例など、各種特例の適用可否で控除できる金額も考慮して行う必要があります。相続税には基礎控除があり、以下の式で計算をします。
基礎控除=3,000万円+法定相続人×600万円
財産の合計が基礎控除以下であれば、相続税の申告も必要ありませんので、相続税対策について検討する必要はありません。
現状を把握することで、税額や税率がわかりますし、対策を打つことでどれくらいの金額が節税できるか把握することができるため、具体的な対策をの要否を判断する時は、必ず現状把握をしておくようにしましょう。
また、保有している財産をまとめておくことで、相続発生後に財産を調査する必要がないため申告手続きもスムーズに行うことができます。相続税の申告期限は10ヶ月と短いため、申告や納税の手続きをスムーズに済ませることが状態にしておくことも重要です。
税理士がおすすめする相続税対策
次に税金の専門家である税理士がおすすめする有効な相続税対策についてご紹介します。既に行っているものもあるかもしれませんがそれぞれの特徴と注意点について解説しますので、参考にしてみてください。
生命保険の非課税枠の活用
生命保険には非課税枠が設けられており、被保険者となっている被相続人が亡くなった際に相続人が受取人として受け取ることができる死亡保険金に対して、500万円×法定相続人まで非課税で受け取ることができます。例えば、法定相続人が配偶者と子ども2人で合計3人のケースでは、1,500万円まで非課税で財産を遺すことが可能です。
生命保険の非課税枠は簡単で確実に負担を減らすことができる制度ですので、一般的によく利用されており、契約が成立した直後に非課税枠の適用対象となりますので、相続発生の直前でも効果を得ることができます。
亡くなる前に契約しておく必要がありますので、自分の相続人の範囲と非課税枠の上限金額を確認し利用しておいた方が良いでしょう。
生命保険は金融機関や保険会社で加入することができます。非課税枠を超える金額の契約を行っても、節税効果はありませんので注意しましょう。
生前贈与
多くの人が相続税の軽減のために行っている生前に贈与をするのもおすすめの対策の一つです。贈与税には基礎控除があり、暦年贈与は1月1日から12月31日までの1年間で110万円以内であれば非課税となります。
祖父母や親などの直系尊属から子どもや孫など次の世代の家族に贈与をすることで、相続発生時にかかる相続税を減らすことができます。
贈与をする対象に制限はありません。子供の配偶者や孫にも広げて贈与契約をすることでより多くの人に贈与をすることができます。多くの人に一定の期間、定期的に贈与することで、相続発生時点の財産を減らし、節税効果も大きくなっていきます。多ければ多いほど、効果は大きくなりますので、例えば、4人に10年、贈与を続ければ、非課税枠の範囲内で累計4,400万円もの多額の財産を生前に差し引くことができます。
暦年贈与は税制改正により、2023年までは相続発生前3年以内の贈与は相続財産に加算される制度となっていますが、2024年の1月1日以降の贈与は以前とは異なり、7年間繰り戻されることになりました。一方で、相続時精算課税制度にも非課税枠ができ、繰り戻しもないため、今後は相続時精算課税制度を利用する人が増えるでしょう。暦年贈与と相続時精算課税制度は併用することができないため、どちらかを選択する必要があります。
また、贈与税にも要件を満たせば、利用できる特例があり、受贈者が住宅取得資金や結婚・子育てを理由とする贈与であればそれぞれ最大1,000万円、教育資金を目的とする贈与であれば最大1,500万円までを限度に現金を一括で贈与することが可能です。贈与の特例は頻繁に改正がありますので、自分の状況で使えるかどうか、最新の情報を得ておくようにしましょう。
ただし、条件を満たすとしても、一括で大きな資金を生前に贈与を受けていた場合、不公平が生じていしまい、相続発生した際に、民法で定められた法定相続分が取得できない者から認められないと異議が出てトラブルになる可能性があります。遺言書の作成を検討するなど、遺産を分割する際に親族間でトラブルにならないように配慮する必要があるでしょう。
不動産を活用する
基本的に預金や株式は時価評価で相続税評価の計算を行いますが、不動産の場合、土地は路線価額×面積、建物は固定資産税評価額で評価額を算出します。路線価は時価の8割程度で設定されており、国税庁のホームページで地域別に掲載されていますので、簡単に確認することができます。建物は時価の6~7割程度で評価されることが多く、固定資産税の納税通知書で確認することができます。
不動産を購入し、保有資産を金銭から不動産に換えることで、実際に売買する価格よりも相続税評価上の財産を減額することにつながるため、相続税対策につながります。
また、保有している土地にアパートやマンションなどの家屋を建築し、賃貸物件として人に貸していた場合、貸家建付地として評価されるため、その分、更に評価を下げることができ、節税効果は大きくなります。ただし、不動産投資にはリスクがあります。
物件への入居がうまくいけば、賃料の収益で資産を増やすことができますが、空室が継続的に続けば固定資産税などの支出で赤字になっていきますし、不動産は必ず価値が値上がりするわけではありませんし、同じくらいの値段で売却できるとも限りません。経済情勢によっては売却する際に大きく値下がりして処分することが難しくなるリスクもありますし、火事や天変地位で建物が使えなくなる可能性もあります。
銀行からローンなどの債務がある場合は金利が上昇し、コストが増える恐れや天変地異で所有する物件が破損した場合などに対応して修理が必要となる場合もあります。
そのため、結果的に貸家としての経営がうまくいかず、節税効果以上に損失が出る可能性もあります。東京、大阪、名古屋などの三大都市圏でも必ず運営がうまくいくわけではありません。規模が大きい物件であればあるほど、節税効果も大きくなりますが、リスクも大きくなりますので、投資成果に対して過度な期待は禁物です。
養子縁組で法定相続人を増やす
養子縁組で法定相続人を増やすことで相続人の数が増えるため、相続税や生命保険の非課税枠を増やすことができます。養子縁組は実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人まで養子に入れることができます。
一般的には孫を養子に入れることが多いですが、養子を入れることで本来の法定相続人とは異なり、孫に遺贈することになるケースがあります。
状況によっては遺産分割協議で揉める可能性があります。養子に入れることで法定相続割合や遺留分にも影響しますので、相続人間の関係が悪化しないように、先に遺言を作成しておくなど、分け方にも考慮しておくことが大切です。
節税対策は税理士に相談を
相続税は基本的に所得税のように毎年申告して支払うものではありませんし、相続税法で定められた特例や税額控除の仕組みは非常に複雑で知識がない人がすぐに内容を理解することは難しいものです。特例の条件は複雑で、細かく条件を理解することも慣れない人には困難ですので、事前の準備も重要です。
例えば、配偶者控除や居住用の家を相続する際に利用できる特定居住用宅地の特例を使って評価を減額するためには、配偶者か同居の子どもに相続させる必要があります。特定居住用宅地の特例は330㎡まで80%評価を減額できる制度ですので、大きく課税価格を下げることができ、是非使いたい制度です。
このように特例を使うには誰に何を相続させるか決めておく必要もありますし、事業用の資産を承継する際に利用できる特例もあります。相続税対策において、最前の方法は人によって異なります。税金を安くすることができても、相続人間のトラブルが起こってはいけませんので、自分にあった方法を探すことが重要です。
相続税の申告をするための書類の作成や相続税対策について税理士に依頼した場合、税理士の費用がかかるというデメリットがありますが、費用以上に節税のメリットが大幅に上回る可能性があります。上記の相続税対策はあくまで一例で他にも税額が下がるさまざまな方法があります。高額な税金がかかる可能性がある人は、相続税務に強い、実績豊富な税理士にサポートを依頼することで対策がしやすくなるでしょう。
また、誤った相続税の申告を行った場合、税務署の税務調査で指摘を受ける可能性もありますが、税理士に確認してもらっておけば安心です。相続税について不安な方は、まずは電話などで気軽に相談してみてもよいでしょう。